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T細胞を主役とした免疫細胞療法の弱点[2−3]

こちらのコラムは書籍 『高活性化NK細胞で狙い撃つ 究極のがん治療』より、一部抜粋してご紹介いたします。

本書は免疫細胞療法の中で、がんへの高い攻撃力を期待されている「高活性化NK細胞療法」と複合免疫療法を中心に、これからのがん治療とその効果について紹介しています。

目次

T細胞を主役とした免疫細胞療法の弱点

がんの策略に惑わされないNK細胞

他の免疫細胞を活性化させる働きもある

T細胞を主役とした免疫細胞療法の弱点

これらの免疫細胞療法の中で、NK細胞療法を除く治療法は、結果的に多くの割合を占めるT細胞の数を増やし、がんへの攻撃力を高めるというのが基本的なメカニズムです。

T細胞の中で実際にがんを攻撃するのはキラーT細胞です。ただし、キラーT細胞は特定の敵にしか攻撃能力を発揮できません。樹状細胞から抗原提示を受けて、がん細胞の情報を与えられてはじめて認識したがん細胞を攻撃することが可能なのです。逆にいえば、情報を与えられなければ動かない細胞なのです。

つまり、せっかくキラーT細胞を増やしたとしても、樹状T細胞を主役とした免疫細胞療法の弱点細胞から確実にがんの情報を与えられる保証はなく、増やした分だけ確実に殺傷能力が増えるわけではないのです。

もう一つ、キラーT細胞の弱点として、情報が与えられたとしてもがんの情報が変わってしまい、攻撃ができなくなるということも考えられます。がん化した細胞は生き延びていくために、実はさまざまな策を講じてきます。がん細胞は、遺伝子に異常を持ったまま分裂していくので、異常の上に異常が重なり、どんどん性質が変化し、情報が変わっていくからです。

ある時点で免疫細胞が攻撃できても、分裂を繰り返すうちに攻撃が効かなくなる、いわゆる抵抗性を持ってしまうのです。さらに、免疫の働きを抑えてしまうような物質を作り出し、免疫細胞の攻撃をブロックしてしまうがん細胞が出てくる場合もあります。

そして、免疫の攻撃を逃れるための策の一つに、「自分のがんである情報を消してしまうことがあります。

そもそもすべての細胞は、自分の情報を提示して、ほかの細胞にその情報を知らせる仕組みがあります。そのようにして細胞同士が互いを認識しあい、調和を保って活動し、生命体を維持しているのです。

がん細胞もその仕組みから漏れることなく、がん細胞であるという情報を提示しています。

情報は具体的にいうと、ペプチドというアミノ酸が鎖のようにつながったタンパク質の断片です。

ここで、細胞の情報の提示の仕方について少し説明しておきます。細胞の表面には、お皿のような形をした分子がたくさん突出しているのですが、その上にいろいろなペプチドを載せることで情報を提示しているのです。

そして、この情報を載せるお皿が、獲得免疫の説明の際に紹介したMHC分子になります。正常な細胞は必ず持っており、この上に載せるペプチドの種類によって、その細胞の特徴がわかるようになっています。

細胞ががん化すると、「がん抗原タンパク質」というタンパク質がつくられます。がん抗原タンパク質由来のペプチドも、このMHC分子のお皿の上に載って、がん細胞の表面に、自分の情報として提示されています。

そして、ヘルパーT細胞やキラーT細胞など、獲得免疫に携わるT細胞は、MHC分子のお皿の上に載ったペプチドを情報として認識し、これを目印にしてがん細胞を攻撃しているのです。

ところが、がん細胞の中にはMHC分子を出さないものがおり、そうなるとT細胞にとっての目印がなくなり、キラーT細胞はがん細胞を攻撃できなくなってしまいます。

そうなると、いささか心もとなくなります。もちろん、がん細胞のすべてがMHC分子を出していないわけではありませんから、ある程度の成果は期待できます。しかし、MHC分子を出さないがん細胞を、キラーT細胞は敵としてとらえることはできませんから、空振りに終わってしまうこともあるというわけです。

こうしたがん細胞の場合には、別のアプローチで攻撃をしかける免疫細胞を使った治療が望ましいということになります。

がんの策略に惑わされないNK細胞

先に説明したキラーT細胞は、獲得免疫を利用してがんを攻撃する免疫細胞でした。がん細胞の表面にあるMHC分子の上に載った情報を目印にして攻撃対象を絞り込みます。しかし、目印がない場合は、もう一つの免疫システムである自然免疫に頼らざるを得ません。

自然免疫は、生物の進化において原始的な生物にも存在する免疫システムです。異物に対して迅速に反応するのが自然免疫のもっとも大きな特徴です。

その自然免疫の中で、がんの殺傷する能力を持った細胞はNK細胞です。

獲得免疫では、T細胞を中心にB細胞や樹状細胞など複数種類の免疫細胞が連携しあって異物を排除します。それに対してNK細胞は単独で全身をくまなくパトロールし、敵を見つけたらすぐさま無差別に攻撃する細胞です。連携を必要とせず単独で攻撃できるのですから、とてもフットワークが軽い免疫細胞といえます。

しかもNK細胞は、T細胞が必要とするがんの情報を必要とせず、異常な細胞と判断したものはすべて、攻撃の対象にしてしまうのです。

何をもって、異常と判断するか―実はがん細胞は、獲得免疫が反応する目印のほかに、多くの異常細胞が細胞表面に出しているMⅠCA/B分子という別の目印も持っているのです。

NK細胞はこの目印を認識してがん細胞を攻撃するのです( 55 ページ図表2参照)。

またNK細胞は、MHC分子がない細胞を選んで攻撃対象にします。先にも述べましたが、MHC分子は本来すべての細胞が持っているべきものであり、MHC分子がない細胞はすべて異常細胞であるとNK細胞はみなすのです。

ですから、キラーT細胞では攻撃不可能な、MHC分子を消してしまったがん細胞が、NK細胞にとってはまさに格好の獲物となるわけです。

T細胞はだませても、NK細胞の目はごまかせない。がん細胞からすれば、獲得免疫のシステムをうまくあざむいたつもりでいても、NK細胞からは逃れられないのです。

他の免疫細胞を活性化させる働きもある

さらにNK細胞は活性化することで、連鎖的に他のNK細胞や免疫細胞を活性化させることも明らかになってきました。

NK細胞が活性化するとサイトカインの一種であるインターフェロンγが放出されます。このインターフェロンγも、マクロファージやT細胞などのがんを攻撃するさまざまな細胞の活性化や増殖に関与し、免疫システムを強化する上で重要な役割を果たすことが知られています。

これらの働きからインターフェロンγ自体が抗腫瘍作用を持つといわれるほどで、免疫細胞を強力に援護する武器といってもいい存在です。

つまりNK細胞が活性化すれば他の免疫細胞の活性化を促して、がんを攻撃するための総合力をアップさせることができるというわけです。

とりわけ獲得免疫であるT細胞の増殖に関わっていることは、がんの攻撃力を増すという点で重要でしょう。自然免疫のNK細胞、かたや獲得免疫のキラーT細胞がともに活性化すれば免疫の手から逃れようと素性を隠しているがん細胞もそうでないがん細胞も、つぶさに攻撃することが可能だからです。

NK細胞はストレスと加齢で活性が落ちる

ここまでの話で「それほどのがん殺傷能力があるなら、体内でNK細胞を増やすことができればいいのに」と思った方もいるかも知れません。

何かを食べたり飲んだり、あるいは運動をするなどでNK細胞を増やすことが確実にできればいいのですが、今のところ体内でどんな条件のもとにNK細胞が増殖するかはまだ研究途中であり結論は出ていません。

しかし「NK細胞はストレスや加齢で活性が落ちる」ことはわかってきています。過剰なストレスがかかり精神的な緊張状態が続くと、後の章で説明しますが、特にNK細胞の数も活性も大幅に下がってしまうことが今までの研究等で確認されています。また、NK細胞は15〜20歳時がもっとも活性が高く、その後は年齢とともに下がっていくこともわかっています。

NK細胞の活性が低くなれば、異常な細胞を体内で排除する力が落ちるわけですから、がんになるリスクも高くなるといっていいでしょう。がんは「老化病」ともいわれ、がん種によるNK細胞はストレスと加齢で活性が落ちるものの、一般的には中高年以降の年代に発症が多い病気です。その背景には「加齢」と「ストレス」が少なからず関わっていると考えられます。

そこで体内では活性化が難しいNK細胞を体外で増殖・活性化し戻すことで、がんへの攻撃力を高めようという治療法が開発されました。それが本書の中心となる「高活性化NK細胞療法」なのです。治療の詳細については、次章で説明します。

 

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