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がんを見つけて攻撃する 「NK細胞」とは?[2−1]

こちらのコラムは書籍 『高活性化NK細胞で狙い撃つ 究極のがん治療』より、一部抜粋してご紹介いたします。

本書は免疫細胞療法の中で、がんへの高い攻撃力を期待されている「高活性化NK細胞療法」と複合免疫療法を中心に、これからのがん治療とその効果について紹介しています。

目次

古くから行われてきた免疫細胞療法

それぞれ役割が違う免疫細胞

免疫システムには2種類ある

古くから行われてきた免疫細胞療法

免疫細胞療法は、日本ではここ10年くらいの間に一般の方にも名前が知られるようになってきた療法ですが意外と長い歴史があります。

もともと18〜19世紀に天然痘やジフテリア、破傷風など、多くの死者を出していた伝染病の予防のために研究が進められ、大きな成果を上げていました。当時から一度感染すると二度と感染しないのは、その病気に対する免疫ができるからということがわかっており、免疫は「二度なしの現象」と呼ばれていたのです。

がんの治療という点では1970年代に登場した「免疫賦活剤」に端を発すると考えられています。免疫賦活剤とは文字通り、体内の免疫を活性化する作用のある薬剤で、キノコの一種であるカワラタケから抽出した成分や、シイタケ由来の多糖類を原料としたものなどがあります。現在も抗がん剤と併用して、副作用を抑えたり、抗がん剤の作用を助ける目的で使われたりすることがあります。

免疫賦活剤の登場をきっかけに「人の免疫を活性化させてがんを攻撃する」治療法の開発に、多くの研究者が関心を寄せるようになりました。本書の核である「免疫細胞療法」の黎明期です。

1980年代に入ってから、アメリカの国立がん研究所(NCI)のローゼンバーグ博士らが、患者さんの血液からリンパ球を取り出し薬剤を加えて培養し点滴で同じ患者さんの体内に戻す、という治療法を開発し論文を発表しました。

このときはがんの治療効果が期待したほど得られなかった一方、培養に用いた薬剤の副作用が強かったため実用化には至らなかったのですが、その後急速に免疫細胞療法の研究が本格化しました。試行錯誤を繰り返しながら、1990年代にはリンパ球を体外で大幅に増やし、活性化させてかつ副作用がほとんどない方法が開発されたのです。

その後リンパ球の中にあるさまざまな免疫細胞の役割が明らかになり、特定の細胞だけを増やす技術も開発されました。国内でも保険外ではありますが実際の治療に導入している医療機関が増えてきています。

免疫細胞療法には、体外で免疫細胞を増殖、活性化させたのちに体内へ戻すことでがんへの攻撃を期待する治療法や、がんの特徴を免疫細胞に覚え込ませてその特徴を持つものを特異的に攻撃させる治療法などいくつかの種類があります。

それぞれ役割が違う免疫細胞

前章でも説明しましたが、免疫システムは、体に入ってくる外敵を見つけ出し排除することで、体を病気から守ってくれています。それはまるで国を守る防衛軍のように、さまざまな役割を持った兵士である免疫細胞たちによってつくりあげられています。

第1章で免疫を担っているのはおもに白血球と説明しましたが、白血球といってもその中にはたくさんの種類の細胞があり、それぞれ働きが異なります。おもに次の3種類に分けられます。

1.顆粒球― 好中球、好塩基球、好酸球

無脊椎動物にも見られる原始的な細胞で、免疫システムの中では初期に働きます。顆粒球の90%以上を好中球が占め、おもに細菌などの比較的大きな異物を食べて処理します。寿命が1〜2日ほどしかないとされ、単球やリンパ球に比べるとすぐ尽きてしまうのが特徴です。なお、傷口等にできる膿は好中球が細菌と戦った後の死がいによるものです。

2.単球― マクロファージ、樹状細胞

単球は白血球の一種で核が一つのため単球と呼ばれます。白血球全体の5%ほどを占め、血液中から組織に移動するとマクロファージや樹状細胞へ分化します。

おもに顆粒球が食べきれなかった異物を取り込み処理する役割があります。マクロファージは、マクロ=大きい、ファージ=食べるという名前の通り、何でもたくさん食べるので「貪食細胞」と呼ばれます。また、単球から分化した樹状細胞はマクロファージほどには貪食ではありませんが、異物を食べた後にその異物の特徴をリンパ球に教える働き(抗原提示)があります。

3.リンパ球― T細胞、B細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞

外敵を見つけ出し排除するという免疫システムの中心的な役割を担っている免疫細胞で、それぞれ異なる役割や特徴を持っています。

・T細胞

樹状細胞から異物の情報を教えてもらい、それと同じ情報を持った異物を攻撃します。なお、T細胞はさらに、攻撃専門部隊である「キラーT細胞(細胞障害性T細胞:CTL)」、キラーT細胞や他の免疫細胞に攻撃指令を出す「ヘルパーT細胞」、これらのT細胞が過剰に働いた場合にブレーキをかける「制御性T細胞」に分けられます。

またT細胞は、一度侵入した異物の情報を記憶にとどめており、次に同じ異物が入ってきたときは速やかに対応できるようにしています。

・B細胞

リンパ球の一種で、異物の特徴に応じて、その異物が活動できないようにする物質(抗体)をつくります。抗体は、異物に接着して動きを止めたり、毒素を中和したりします。さらに無毒化して活動できなくなった異物を貪食細胞が食べやすくなるようにします。

B細胞も、一度侵入した異物の特徴を記憶にとどめます。

・NK(ナチュラルキラー)細胞

リンパ球の一種で、おもに異常となってしまった自己の細胞を攻撃します。異常となってしまった自己の細胞とは、おもにウイルスに感染した細胞やがん細胞のことを指します。

NK細胞は常に身体の中をパトロールして自己の細胞をチェックし、異常とみなすと即座にこれを殺してしまいます。

なお、異常細胞を殺傷する能力を活性と呼び、活性が高まった状態のNK細胞のことを活性化NK細胞と呼びます。また、このNK細胞の活性(NK活性)を測定する方法も確立されています。

免疫システムには2種類ある

例えば、侵略者に対して、国であれば自然の地形や防御壁などである程度の侵入を防ぐことができますが、その壁を越えてきた侵入者に対しては、まず最前線にいる部隊が最初の攻撃をしかけて、これを撃退しにかかります。

それでも防ぎきれず侵入された場合は、次は別部隊が、最前線の部隊からその侵入者の特徴を受け取って、その特徴をもとに侵入者を探し出し、駆逐することで国を守ることができます。

免疫システムもこれに似ています。敵を排除するために2種類の仕組みを持っているのです。一つは「自然免疫」、もう一つを「獲得免疫」といいます。

〈自然免疫〉

「自然免疫」は簡単にいうと、異物の侵入に対して即座に反応して攻撃できる常設の防御部隊です。この自然免疫を担う免疫細胞はおもに顆粒球やマクロファージ、NK細胞です。これらの細胞は全身をパトロールし、異物と遭遇するとその詳しい素性がわからなくても無差別に攻撃して排除しようと発動するのが特徴です。

〈獲得免疫〉

自然免疫が異物を無差別に攻撃するのに対して、相手の特徴をつかんでから攻撃するのが「獲得免疫」です。自然免疫の部隊では退治しきれなかった外敵が体に入り込んできてしまったときに発動します。

獲得免疫では、まず樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞と呼ばれる細胞が侵入してきた異物を食べて、その情報を獲得します。

異物の情報をつかんだ抗原提示細胞は、T細胞などのほかの免疫細胞にそれを伝えます。免疫細胞は、体をめぐりながら同じ情報を持つ異物と出合ったら攻撃をするという仕組みです。

T細胞は、異物の情報を一度覚えれば長期間それを忘れることはありませんので、同じ異物が侵入するたびに排除しようと働きます。例えば「はしか」は一度かかると一生かからない病気として知られていますが、それはこの獲得免疫の仕組みが、生きている間ずっと働いているからです。

このように獲得免疫の仕組の中では、免疫細胞の間で異物の情報交換が行われ、その情報をもとに異物の確認作業が行われています。そして、これらの情報のやりとりにタンパク質を必要とし、このタンパク質のことをMHC分子(主要組織適合抗原)と呼んでいます。

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