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自然免疫と獲得免疫の橋渡し役「樹状細胞」|がん免疫療法の基本用語

がんの免疫療法にはたくさんの、聞きなれない専門的な用語が出てきます。ここでは治療への理解を深めるため、特に知っておきたい言葉について解説します。今回は「樹状細胞」と「未熟樹状細胞」です。

医療法人輝鳳会 理事長 池袋クリニック 院長

目次

樹状細胞とは

未熟樹状細胞とは

樹状細胞とは

免疫細胞の一つである樹状細胞は、樹木の枝のような突起がいくつもあることから、このように名づけられました。発見は1970年代、米国のRalf Steinmanらとされていますが、当時その働きについてはほとんどわかっていませんでした。

しかし徐々に、免疫システムの働きが解明されるとともに、樹状細胞の役割も明らかになってきました。ほかの免疫細胞が白血球に多く存在するのに対し、樹状細胞は皮下組織や消化管、気道等の粘膜下組織をはじめ、全身に存在し、外から侵入してくる細菌や真菌、ウイルスといった異物に対して、素早く反応できるようになっています。

がんに対しては、樹状細胞自体にがん細胞を殺傷する力は実はほとんどありません。 しかし、がん細胞の死骸などを貪食して特徴をいちはやくとらえ 、ほかの免疫細胞に知らせるという、ほかの免疫細胞にはない重要な役割を担っていることがわかったのです。

がん細胞の特徴とは、すなわち前回お話しした(がん免疫療法を免疫の基本用語から理解する)「がん抗原」です。がんが「自分はがんですよ」と示す旗印のようなものです。 実は樹状細胞は、先に紹介したようにがん細胞を取り込むことで旗印を見つけ出すことができるのです。

見つけ出すだけではありません。「敵の印はこれだ!」とかかげて、T細胞に伝えに行くのです。T細胞はわきの下や太ももの付け根等にあるリンパ節に多く存在しています。樹状細胞は敵を取り込んだ後、リンパ管を通りリンパ節まで移動して、T細胞にその印を伝えるのです。これを「抗原提示」といいます。

T細胞は「抗原提示」によって、つまり敵の情報を得てはじめて、殺傷能力をもつキラーT細胞となり、身体中をめぐっては同じ情報を持つ敵=がん細胞を殺します。裏を返せばT細胞は、攻撃の対象がわからなければ、どんなにその数が多くてもがんに対しては無力といえます。樹状細胞の働きがあってこそ、討つべき敵が明確となり、強力な攻撃部隊になるわけです。

[図表]樹状細胞の働き
樹状細胞の働き

未熟樹状細胞とは

樹状細胞は大きく、未熟樹状細胞と成熟樹状細胞に分けることができます。

樹状細胞はそもそも、はじめから樹状細胞として存在しているわけではなく、造血幹細胞(主に骨の中心部分にある骨髄にいる細胞で、赤血球や白血球、血小板等の血液の細胞を造り出す)からさまざまな経路で分化し、全身へと分布していきます。血液中では単球として多く存在し、血中から組織に移動して樹状細胞やマクロファージなどの細胞に変化します。

このうち、敵にまだ遭遇していない状態の樹状細胞を未熟樹状細胞といいます。易しくいえば、まだ経験が浅く十分な働きができない樹状細胞です。未熟樹状細胞は、敵を取り込む貪食能力は十分あるのですが、敵の印を出す、すなわち抗原提示力がまだ備わっていないのです。

しかし実際に体の中で免疫と敵との戦いが始まると、 免疫細胞から分泌される炎症を強める物質(炎症性物質)などからの刺激を受けることで未熟樹状細胞は成熟樹状細胞になり、抗原提示力が高まります。ただしその代わり、敵を取り込む貪食能力は弱まってしまいます。

これにより前項で話したT細胞への抗原提示ができるようになり、T細胞はキラー細胞となりがんを攻撃できるようになる、というわけです。

このように樹状細胞は、敵を正体のわからない状態で取り込み、そこから特徴を取り出して伝える役目を持ちますので、「自然免疫と獲得免疫の橋渡し役」と呼ばれることもあります。

近年、がんにかかった方の体内では、こうした未熟樹状細胞から成熟樹状細胞への分化ががん細胞の作用で抑制されてしまうことがわかってきました。そうなると、抗原情報を提示できない未熟樹状細胞のままになってしまうので、T細胞のがん攻撃能力が発揮できなくなってしまいます。

その“救世主”となるのがiNKT細胞です。iNKT細胞は免疫細胞の中で唯一、未熟樹状細胞と反応し、成熟樹状細胞に分化させることができることがわかっています。 この作用により、がん患者さんに本来備わっているがんに対する攻撃力をサポートすることが可能なのです。

まとめ

私たちの体内にある免疫細胞の中でも樹状細胞は、敵の情報(抗原)を他の免疫細胞に伝え(抗原提示)、「狙い撃ち」の体制を整える重要な役割を持っています。樹状細胞は骨髄幹細胞から未熟樹状細胞へ、そこから成熟樹状細胞へと分化していき、抗原提示能力を持つのは成熟樹状細胞です。がんにかかるとこの分化が抑制されることがわかってきましたが、iNKT細胞は免疫細胞の中で唯一、未熟樹状細胞から成熟樹状細胞を分化させることができるため、がんにかかった人の免疫力をサポートすることができると考えられています。

【甲 陽平(かぶと・ようへい)】
医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長
1997年、京都府立医科大学医学部卒業。2010年、池袋がんクリニック(現 池袋クリニック)開院。
「あきらめないがん治療」をテーマに、種々の免疫細胞療法を主軸とし、その他の最先端のがん治療も取り入れた複合免疫治療を行う。
池袋クリニック、新大阪クリニックの2院において、標準治療では治療が難しい患者に対して、高活性化NK細胞療法を中心にした治療を行い、その実績は5,000例を超える。

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