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免疫細胞の統括司令官をターゲットにした「iNKT療法」とは?

1980年代に日本の研究チームにより発見されたNKT細胞。T細胞、B細胞、NK細胞に次ぐ「第4のリンパ球」と呼ばれ、今は世界各国で、がん治療等への応用研究が進められています。本記事では、NKT細胞の特徴ならびにNKT細胞の活性化を図るiNKT療法について解説します。

医療法人輝鳳会 理事長 池袋クリニック 院長 甲陽平

目次

日本の研究チームが発見した「第4のリンパ球」NKT細胞

臨床試験もスタート。国レベルで注目されているNKT細胞

がんに対抗する「総合力」の底上げを期待

日本人が発見した「第4のリンパ球」NKT細胞

私たちの体を外敵から守る免疫システムは、そのほとんどを血液中の白血球が担っています。白血球はさらに、マクロファージや好中球などによる「血球」と、T細胞やB細胞、NK細胞などによる「リンパ球」の、大きく2つのグループに分けられます。

NKT細胞は「リンパ球」に属するT細胞の一種です。当時千葉大学の教授であった谷口克先生(現・理化学研究所)の研究チームにより、1986年に発見されました。T細胞、B細胞、NK細胞に次ぐ「第4のリンパ球」と呼ばれ、今では世界にその名前が知られることになり、がん治療などへの応用研究が進められています。

NKT細胞はT細胞でありながら、T細胞とは異なる性質を持っています。

T細胞は抗原提示細胞から抗原という敵の目印を受け取り、それを頼りに攻撃をしかけますが、その目印はペプチドというタンパク質の断片です。

一方、NKT細胞は、同じように敵となるがんの目印を受け取りますが、目印はタンパク質ではなく、糖脂質です。T細胞は敵の目印を得てからその目印を頼りに自ら攻撃をしかけます。対してNKT細胞は、目印を受け取って自身が敵を攻撃するのではなく、他の免疫細胞を刺激して敵を攻撃する働きを活性化するということが分かっています。

また、T細胞の多くは、敵と戦うと“討ち死に”してしまうのに対し、NKT細胞は、長期にわたり他の免疫細胞を刺激し続け、攻撃体制を維持することができるのが大きな特徴です。攻撃システムの仕組みは解明の途上ですが、NKT細胞が免疫システムのなかで果たす役割は多岐にわたり、かつ重要であることが明らかになってきています。

臨床試験もスタート。国レベルで注目されているNKT細胞

がん免疫分野ではニューフェイスといえるNKT細胞ですが、再生医療分野で注目されているiPS細胞と掛け合わせたがん治療の臨床試験が、年内にも始まる見込みです。

理化学研究所と千葉大学のチームで行われるこの試験は、iPS細胞から大量のNKT細胞を作り、それを頭頸部がん患者さんの患部付近の血管に注入するという計画で、今のところ、標準治療が終了した患者さん3名が対象、期間は2年の予定です。なお、頭頸部がんとは、鼻や耳、口など顔から首にかけてできるがんの総称です。

NKT細胞は通常、血液1~10ミリリットルの中に1個ほどしか存在しません。しかしこの試験では、他人のiPS細胞を用いて3000万個ものNKT細胞を作り、それを数回に分けて注入します。この試験に先駆けて行われた臨床研究では、1回の注入でがんが3~4割縮小したとの報告もあります。

今回の臨床試験は、安全性および効果を調べるのが目的です。がんに対する効果だけでなく、副作用等、患者さんのデメリットになる点も併せて検討されます。安全性の確認がとれれば、次に有効性を調べる臨床試験が行われ、iPS細胞によるNKT細胞の作製および注入による治療の総合的な評価が下されることになります。

このように、今やNKT細胞は国レベルで、新たながんの治療法開発に向けて注目されている免疫細胞といっていいでしょう。

がんに対抗する「総合力」の底上げを期待

当院で行っているiNKT療法は、患者さんの血液から単球を取り出し、そこからNKT細胞を活性化する単球を選択採取し、そこに糖脂質を加えて抗原提示をさせて、ふたたび患者さんの血液中に戻す治療法です。方法は違いますが、NKT細胞を刺激してがんを攻撃する目的で行うという点では上の臨床試験と共通しています。
 NKT細胞には他の免疫細胞を全体的に活性化する働きがあることから、軍の統括指令官のような役割を担っており、がんに対抗する免疫力を底上げする役回りが期待されます。

まとめ

NKT細胞は、免疫細胞を全体的に活性化させ、がん細胞に対する獲得免疫系、自然免疫系の両方を活性化できることがわかっています。iNKT療法ではそのNKT細胞をターゲットにして活性化し、長期にわたってがんに対する免疫力を高め、がんを抑制することが期待されています。

【甲 陽平(かぶと・ようへい)】
医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長
1997年、京都府立医科大学医学部卒業。2010年、池袋がんクリニック(現 池袋クリニック)開院。
「あきらめないがん治療」をテーマに、種々の免疫細胞療法を主軸とし、その他の最先端のがん治療も取り入れた複合免疫治療を行う。
池袋クリニック、新大阪クリニックの2院において、標準治療では治療が難しい患者に対して、高活性化NK細胞療法を中心にした治療を行い、その実績は5,000例を超える。

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