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Cancer

標準療法唯一の全身療法「抗がん剤」の必要性

抗がん剤治療には副作用が伴い、患者さんにとっては負担が大きい治療方法です。抗がん剤の副作用に強い不安を感じる患者さんは多いと思います。最近では、そんな患者さんの不安をさらにあおるような書籍が書店に並び、「抗がん剤は効き目がなく、体に毒だ」などと抗がん剤を否定するような本さえあります。果たしてそれは本当なのでしょうか。
今回は抗がん剤治療の必要性について正しい知識を身につけ、上手に副作用と付き合い、がんと闘うための情報についてお伝えします。

目次

抗がん剤の副作用は生存率が高まるサイン?

「抗がん剤は延命のためのもの」は間違い

抗がん剤が効くかどうかは免疫細胞の数に左右される

まとめ

抗がん剤の副作用は生存率が高まるサイン

抗がん剤にはいくつもの副作用がありますが、その中に「好中球の減少」があります。好中球とは細菌やカビなどから体を守ってくれる血液中の細胞のひとつで、減少すると感染症などを引き起こしやすくなってしまうのですが、抗がん剤を投与して7~14日後に好中球が特に減少し、腹痛や下痢、吐き気、発熱などの症状が多く見られるようになります。抗がん剤による副作用の一種ではありますが、実はこの好中球の減少は“ 生存率が高まるサイン ”ともいわれています。

過去に乳がん患者325人を対象とした研究では、「シクロフォスファミド」「エピルビシン」「フルオロウラシル」という乳がんに対する代表的な抗がん剤治療を行い、好中球減少と患者の生存率との関係が調査されました。その結果、好中球の減少が見られた患者は、好中球減少が見られなかった患者に比べ、5年生存率に19%もの差が出たのです。(Breast Cancer Res Treat 2012;131:483-490)

副作用のひとつである好中球減少は治療経過のよい見通しとして捉えられ、治療効果が高いというサインになるということです。副作用はただ苦しいだけではなく、治療効果を得るために、仕方がないものと考えることで、治療に臨む気持ちも少し、前向きになれるのではないでしょうか。

「抗がん剤は延命のためのもの」は間違い

がんが原発巣から他の臓器に転移した状態では、手術による治療が困難となります。ほとんどの患者は抗がん剤による治療が行われ、がんの進行を遅らせることが目的でした。そのため完治が見込めず「延命治療」だと後ろ向きに捉えられることがありました。

しかし近年の抗がん剤は研究開発が進み、治療効果も高まっています。抗がん剤によってがんが小さくなり、手術で切除可能な状態になったり、転移先のがんが消えたりといった事例も増えてきています。

抗がん剤治療によってがんのステージが下がることをダウンステージングといいます。ダウンステージングすることで治療の選択の幅が広がり、がんを完全に切除できる可能性も広がります。

「もう治らないのなら苦しい思いをしたくない」と抗がん剤治療を拒否される方は多くいらっしゃいますが、主治医としっかりとコミュニケーションを取り、ご自身の状態を正確に把握することに努めていただきたいと思います。ダウンステージングが見込める状態なのであれば、抗がん剤治療によって次の治療に進むことができるかもしれません。また、近年のがん治療では生活の質(QOL)が尊重されるようになり、治療成果だけを追い求めるのみではなくなってきています。

抗がん剤が効くかどうかは免疫細胞の数に左右される

国立がん研究センター中央病院が実施した研究で、免疫細胞の状態によって抗がん剤治療の効果に差が出るということがわかりました。初めて抗がん剤治療を受ける40人の大腸がん患者を対象に行われたこの臨床試験では、血液中の免疫細胞の量について詳しく調べ、免疫細胞が多いグループと少ないグループに分けて生存期間を比較したのです。(Cancer Immunol Res2016;4:592-599)

その結果、がん細胞を攻撃する「キラーT細胞」、攻撃の指令を出す「ヘルパーT細胞」、がん細胞への攻撃を監視する「M-MDSC」の3つの細胞の数が、抗がん剤の治療効果に影響を与えていることがわかりました。研究報告では、「キラーT細胞が少ない」「ヘルパーT細胞が少ない」「M-MDSCが多すぎる」このうち2つ以上が当てはまる場合、病状が悪化するリスクが9倍に高まるとされています。言い換えれば、これらの免疫細胞の状態がよい患者のほうが、抗がん剤治療による治療効果が高まるとも考えられます。

免疫細胞の力を使ってがんと戦う免疫細胞療法も、抗がん剤と同じく全身療法です。がんが転移してしまった進行がんであっても、全身のがん細胞と戦うために適用することができます。抗がん剤による体への負担を考えて、抗がん剤と免疫細胞療法を組み合わせて治療している方もいます。免疫細胞の状態と抗がん剤の治療効果には関係性があるということが分かり、がん治療における免疫細胞の重要性が認識されるようになってきています。

まとめ

抗がん剤は標準療法の一つで、しっかりとしたエビデンスのもと効果が期待できる治療方法です。副作用と戦うことはとても大変なことですが、近年では副作用を抑える薬の開発が進み、昔と比べれば患者の負担は小さくなってきており、免疫療法との併用の期待も高まっています。抗がん剤治療を受けることができる方は、希望をもって取り組んでほしいと思います。

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