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「手術でがんは取りきれた」なのに抗がん剤治療や放射線治療をする必要はあるのか

がんの治療では、手術でがんを取り除くことができたとしても、術後に再発してしまうことがあります。この可能性を少しでも少なくするため、術前・術後に抗がん剤治療や放射線治療を補助的な役割で実施することがよくあります。しかしどちらも副作用の懸念があるため、できることなら受けたくないと考える患者さんも多くいます。この補助的な意味での抗がん剤・放射線治療はどれほど効果があるのでしょうか。詳しく見ていきたいと思います。

目次

術後に行われる抗がん剤・放射線治療の効果は高い

なぜ手術で取り除いたのに再発してしまうのか

免疫細胞療法による全身療法も効果的

まとめ

術後に行われる抗がん剤・放射線治療の効果は高い

手術の前後に行われる抗がん剤や放射線治療は、がんの再発や転移を防ぐために効果的な方法です。それでも、100%防げるわけではありませんし、副作用によって生活の質が下がることも懸念されます。大切なことはその効果とリスクを正しく認識することです。

ここで具体的な臨床研究のデータをご紹介します。

胃がんの手術を受けた患者を対象に、術後にS-1という抗がん剤治療を受けた患者529人と、手術のみで経過を見た530人の患者を比較しました。その結果、手術後に抗がん剤治療を受けた患者の3年生存率は、受けなかった患者と比べて10%も高くなったのです。このことから、抗がん剤は再発の予防として効果を発揮していることがわかりました。(N Engl J Med 2007;357:1810-1820)

また、早期乳がんの手術後に放射線治療を行うことで、局所再発率を減少させるという研究報告もあります。早期乳がん患者で、5年以内の局所再発リスクが高い2万5000人を対象に行った研究では、手術後に放射線治療を受けた患者は、手術のみ受けた患者に比べて、5年以内の局所再発率が約4分の1まで減少しました。

(Lancet 2005;366:2087-216)

なぜ手術で取り除いたのに再発してしまうのか

治療方法として手術が選択されるのは、多くはステージが初期のがんであり、原発巣にがんが留まっているケースです。腫瘍を手術によって取り除いてしまえば、がんを退治できたように思えますが、体の中に目に見えないがん細胞が存在している場合があります。

本来、体には抵抗力が備わっているため、これらのがん細胞を攻撃して死滅させることで、新たながん腫瘍が生まれることを防いでいます。ただ、体の抵抗力だけでは打ち勝つことができず、がん細胞が増殖し、やがて新たな腫瘍が生まれてしまう可能性もあります。そのため、術後に残っているがん細胞に対して、積極的に抗がん剤・放射線で治療を行い、確実にがん細胞を死滅させることで、リスクを軽減する方法が取られるようになりました。

免疫細胞療法による全身療法も効果的

体には抵抗力が備わっていて、目に見えないがん細胞とも戦っていることは前述の通りで、その力こそが「免疫力」です。体の中にはさまざまな免疫細胞が存在し、がん細胞を排除する仕組みが働いています。具体的には、樹状細胞などの見張り役の細胞ががん細胞を監視し、がん細胞の特徴をT細胞に伝達することで、攻撃役のキラーT細胞らががん細胞を攻撃します。これらの能力がしっかりと働いていれば、がん細胞を排除できるのですが、ストレスや生活環境などの要因によって免疫力が下がってしまうと、がん細胞を排除しきれなくなってしまいます。

そこで、この免疫力を高めるために実施されるのが「免疫細胞療法」です。取り出した免疫細胞を体外で増殖させて再び体に戻すことで、患者さんの免疫力を高めがんに打ち勝つことを目的としています。抗がん剤と同じく、目に見えないがん細胞に対してもアプローチすることができることから“全身療法”と呼ばれています。抗がん剤治療と異なる点は、自らの細胞を増殖して体に戻す免疫細胞療法には、副作用がほとんど見られないのです。患者さんの生活の質を維持しつつ積極的に行える全身療法として近年注目を集め、急速に発展してきました。

術後の補助的治療としてはまず、標準療法としてエビデンスが豊富な抗がん剤治療を実施することをお勧めします。ただし、高齢の患者さんや、抗がん剤の副作用を避けたいと考える場合は、免疫細胞療法を組み合わせて術後のケアを行うことを検討してみてもよいかも入れません。

まとめ

手術後の抗がん剤や放射線による補助的な治療は、再発のリスクを低くすることがエビデンスによって証明されています。主治医に勧められた場合、実施することが好ましいと考えられます。とはいえ、補助的治療は、術後数ヵ月から半年続くこともあります。副作用によって生活の質が下がることも考えられ、患者さんが何を一番優先にするかによって、選択すべき治療計画は変わってくるはずです。主治医と相談し自らの希望を伝え、納得のゆく選択をするようにしましょう。

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