食べる量を増やすだけでは改善されない。がん患者の体重減少対策
がんと闘うために治療を頑張っているものの、体重減少が気になり、不安な気持ちが増している患者さんも多いのではないでしょうか? 精神的なものやがんそのもの、治療の内容など、痩せてしまう原因はいくつかあります。しかし、きちんと向き合い、医師と相談しましょう。少しずつでも改善できる術はあります。
目次
避けて通れない食欲不振による低栄養
痩せて元気がなくなっていく悪液質
がんによる体重減少食い止める工夫
避けて通れない食欲不振による低栄養
がん患者さんが痩せてしまうのは大きく二つの原因が考えられます。
第一に挙げられるのが、食欲不振による低栄養です。がんそのものや、手術、放射線治療や抗がん剤治療などの影響により、食欲をなくし、食べたいという気持ちがわかない状態で、がん患者さんによく見られる症状といえます。
食欲不振は、がん治療のさまざまな段階で現れます。場合によっては、がんの告知を受けた時点で、精神的なショックによって食欲不振に陥る人も少なくありません。がんそのものの影響としては、口の中や食道、大腸にがんができたり、がんの腫瘍が大きくなり通過障害が起こったりして、食事がスムーズに取れなくなる場合があります。また、がんの進行により生じる強い痛みも食欲不振を招きます。
治療による食欲不振もよく現れる症状です。手術は、がんを切除するために体の表面に大きな傷をつけたり、場合によっては臓器そのものを切除したりします。このような侵襲といわれる行為だけでなく、手術の傷が治っていく過程では通常の状態よりも栄養を必要される場合もあります。また、抗がん剤治療や放射線治療では、食欲不振のほか、むかつきや嘔吐、下痢などの消化器系の不調が現れ、栄養摂取に障害が起きることも多々あります。
もちろん、がんの種類や受ける手術の内容、抗がん剤治療や放射線治療の程度などによって、術後の食欲不振や栄養障害の程度はさまざまです。がん治療による低栄養の典型的な例は、がんで胃を切除した場合です。低栄養状態によって体重の1割ほどの減少が見られるとされます、また、食道がんやすい臓がんなども手術後に低栄養になりやすいことが指摘されています。
なお、体重の減少は、姿勢を保ち、体を動かすのに必須の骨格筋と呼ばれる筋肉の減少が大きな割合を占めているとされ、サルコペニアに陥る要因ともなるので注意が必要です。
痩せて元気がなくなっていく悪液質
がん患者さんが痩せる第2の原因は悪液質です。がん患者さんでよく見られる、痩せて元気がなくなっていく状態は、悪液質に向かっているといえます。筋肉量の低下が顕著になり、代謝の異常により炭水化物やたんぱく質が失われます。その結果、皮膚が乾燥する、毛髪に光沢がなくなる、目がくぼむ、皮下脂肪がなくなるなどの状態が見られます。それ以外にも脱力感や無力感、食欲不振などの症状も現れてきます。
悪液質により痩せる原因は、がん細胞から放出されるサイトカインなどさまざまな物質の影響により、慢性炎症や代謝異常、免疫異常などが生じることが指摘されています。また、がんによる栄養奪取も発生します。これは、がんが自らのエネルギーを補給するために、筋肉中のたんぱく質や糖を奪い消費する現象で、その結果、全身の筋肉が落ちていき、痩せていくことになります。
がんによる体重減少を食い止める工夫
がんで筋肉が減少して痩せることは、身体機能の低下を招きかねません。がん治療の前はできていた家事や仕事、社会的な活動ができなくなることは、QOL(生活の質)の低下を意味します。また、いったん悪液質に陥るとその治療は困難が伴います。その前段階で適切な食事を取って、栄養状態を改善することは大変重要です。
体重の減少を抑えるためには、何よりもバランスのよい食事が基本です。高たんぱく、高カロリーを基本に、ビタミンやミネラルが不足しない食事を心がけます。とはいえ、頑張りすぎるのは禁物です。食事がつらくなっては元も子もありません。おいしく、楽しく食事を取ることを前提に、工夫をしていきたいものです。
食事の内容は、医師から特に指示がない限り、食べられるものから食べるように心がけましょう。なお、治療中、治療後にかかわらず、自宅で何を食べたらいいのか不安を持つこともあるでしょうが、食事内容によってがんが進行したり、治療の成果に影響を及ぼしたりすることはほとんどありません。医師や看護師、栄養士の指示を守りつつ、時には、外食で気分を変えたりするなど、自分なりの食生活を構築しましょう。
症状別の食事の取り方例
〈体重減少が気になる〉
少量でカロリーの高い食品を利用したり、食事の回数を増やして1日の食事量を確保したりします。また、食事時間を厳守するよりも、食べる気になったときに食べられるものを食べるようにしましょう。
〈吐き気がする〉
味や匂いのほか、見た目などが吐き気の誘因になっていることがあるので、調味料や調理法、盛り付けなどを変えてみます。また、水分の多い野菜や果物、プリン、ゼリーなど、あっさりしたもの、口当たりがよく飲み込みやすい物などを用意しましょう。
〈味覚異常〉
治療の影響で、味覚や嗅覚が一時的に変化することがあります。また、匂いにも敏感になっていることも。匂いの強い食品を控える、口に合う代替調味料を探す、味の濃さを変えてみる、など工夫をしてみます。
〈食べ物を飲み込みにくい〉
柔らかく調理することが基本です。また、裏ごしする、すりつぶすなどの調理法を用います。
〈むせる〉
食事をするときの姿勢や体位を見直します。また、水分が多くむせやすい汁物などは、片栗粉などでとろみをつけます。
まとめ
がんを患ったときに痩せてしまう原因は大きく分けて二つあります。一つは食欲不振による栄養不足、そしてもう一つはがん特有の悪液質によるものです。どちらにしても不安は増すばかりですが、焦らず少しでも改善できるよう情報を集めましょう。一番は、担当医に相談することです。病状に負けない生活づくりをしましょう。