050-3540-6394(池袋クリニック)受付時間:月曜~水曜・金曜 9:30~16:30(日祝除く)

がんを知る

Cancer

悪性胸膜中皮腫|アスベストの暴露から40年後に発症

悪性胸膜中皮腫とは、胸部の肺などを包んでいる胸膜にできる腫瘍です。胸膜の表面は中皮という膜でおおわれており、悪性胸膜中皮腫はその中皮細胞から発生します。発症にはアスベストの関与が知られており、おもな症状には胸痛や咳、胸部圧迫感などがあります。

医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長 甲陽平

目次

悪性胸膜中皮腫とはどんな病気か

悪性胸膜中皮腫の検査、診断、ステージ、生存率は?

悪性胸膜中皮腫の治療は?

悪性胸膜中皮腫とはどんな病気か

悪性胸膜中皮腫は、胸膜(胸部を包む膜)の表面をおおう中皮細胞から発生する腫瘍で、同じく肺に発生する肺がんとは別の病気です。

悪性胸膜中皮腫の発症には、アスベスト(石綿)の関与が知られています。アスベストを吸うなどで暴露されてから、悪性胸膜中皮腫が発生するまで平均40年ほどの期間がかかるとされています。 全中皮腫の年間死亡数は1,410人(2013年)であり、患者数の少ないがんですが、近年急増しています。日本では1970年代~80年代にアスベストが多く使われているため、40年後にあたる2020年代に発症者が増えるのではないかと考えられています。

なお、アスベストが関与する中皮腫の内訳としては、8割程度が悪性胸膜中皮腫、2割弱が悪性腹膜中皮腫、残りがその他、となっており、中皮腫の多くが悪性胸膜中皮腫です。 初期は無症状ですが、進行するにしたがい胸痛、咳、背部痛、胸水がたまることによる呼吸困難や胸部圧迫感が、おもな症状として起こります。ただし、これらは肺炎などのほかの病気でも見られ、悪性胸膜中皮腫に特有の症状とはいえないため、早期発見しにくいのが問題です。

[図表]中皮とは
中皮腫について

体腔(体内の空間)の内面と、体腔の中にある内臓等の器官の表面は、漿膜という薄い膜で覆われています。その漿膜の外側の層(上皮層)を形成しているのが中皮であり、そこに発生する腫瘍が中皮腫です。

悪性胸膜中皮腫の検査、診断、ステージ、生存率は?

悪性胸膜中皮腫の診断においては、肺がんとの区別が非常につきにくいのが現状です。びまん性といって、肺全体を包み込むように広がっている場合は、CT検査等の画像診断で中皮腫の判別がつきやすいものの、多くの場合で肺がんとの鑑別診断が困難であり、胸に針を刺して胸水中の腫瘍細胞を調べたり、組織を採取して調べたりする組織生検が必要となります。

悪性胸膜中皮腫の病期(ステージ)は、腫瘍の大きさや場所、リンパ節への転移の有無、遠隔転移の有無により決められます。

悪性胸膜中皮腫のTNM分類(IMIG分類)

T因子 ― 原発腫瘍
TX:
原発腫瘍の評価が不可能
T0:
原発腫瘍を認めない
T1:
腫瘍が同側胸膜に限局し,臓側胸膜腫瘍の有無で亜分類する
T1a:
腫瘍が壁側胸膜に限局し,臓側胸膜に腫瘍を認めない
T1b:
壁側胸膜に腫瘍があり,臓側胸膜にも散布性腫瘍を認める
T2:
同側胸膜(壁側および臓側)に腫瘍があり,以下の何れかが認められる
  • ― 臓側胸膜を満たす連続性腫瘍進展(葉間胸膜を含む)
  • ― 横隔膜筋層浸潤
  • ― 臓側胸膜下肺実質浸潤
T3:
局所進行状態であるが切除可能なもので,全ての同側胸膜に腫瘍が進展し,以下の何れかが認められるもの
  • ― 内胸筋膜浸潤
  • ― 縦隔脂肪織浸潤
  • ― 完全に切除可能な壁側軟部組織の孤在性進展腫瘍巣
  • ― 心膜の非貫通性浸潤
T4:
切除不能局所進行状態であり,全ての同側胸膜に腫瘍が進展し,以下の何れかが認められるもの
  • ― 胸壁へのびまん性浸潤または胸壁の多発性腫瘍巣(肋骨破壊の有無は問わない)
  • ― 経横隔膜的腹腔浸潤
  • ― 対側胸膜への直接浸潤
  • ― 縦隔臓器浸潤
  • ― 脊椎浸潤
  • ― 心膜腔内への浸潤または臓側心膜浸潤(心囊液貯留の有無は問わない)
N因子 ― 所属リンパ節
NX:
所属リンパ節の評価が不可能
N0:
所属リンパ節に転移がない
N1:
同側気管支肺または同側肺門リンパ節に転移がある
N2:
気管分岐部,同側縦隔,または同側内胸リンパ節に転移がある
N3:
対側縦隔,対側内胸,同側または対側鎖骨上のリンパ節に転移がある
M因子 ― 遠隔転移
M0:
遠隔転移を認めない
M1:
遠隔転移を認める
悪性胸膜中皮腫の病期分類
Stage ⅠAT1aN0M0
Stage ⅠBT1bN0M0
Stage ⅡT2N0M0
Stage ⅢanyT3N0-3M0
T1-2N1-2M0
Stage ⅣanyTN3M0
anyTanyNM1
T4anyNM0

悪性胸膜中皮腫は予後のよくないがんの一つであり、2年生存率20%ともいわれていましたが、医療機関によっては5年生存率32%との報告を出しているところもあり、治療成績は診断や治療技術の発達により今後高くなることが期待されています。

悪性胸膜中皮腫の治療は?

病変が胸膜のみであり、リンパ節や遠隔臓器に転移がなく、手術ですべての病巣を完全にとりきることが可能であると判断される場合には、手術の対象となります。しかし悪性胸膜中皮腫では病巣が広い範囲に及んでいることが多く、手術のみでの治癒は非常に困難なのが実情です。患者さんの健康状態に問題がないと判断されれば、予後改善のために、化学療法や放射線治療を組み合わせて治療を行うこともあります。

現在、悪性胸膜中皮腫に対しては国内外で、複数の新しい抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬、遺伝子治療などの開発、治験も進められています。
放射線療法においては、限られた範囲での病巣を対象に行われることはあるものの、多くは疼痛緩和や、骨転移などの遠隔転移によって起こる症状の緩和、応急処置的な位置づけで行われます。

まとめ

悪性胸膜中皮腫は早期発見が難しく、病巣が広範囲に及ぶことが多いため、予後の思わしくないがんの一つです。しかし近年、国内外で新薬の開発や治験が進められており、また手術と化学療法、放射線療法を組み合わせた集学的治療が行われるなどで、今後、予後の改善が期待されます。

【甲 陽平(かぶと・ようへい)】
医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長
1997年、京都府立医科大学医学部卒業。2010年、池袋がんクリニック(現 池袋クリニック)開院。
「あきらめないがん治療」をテーマに、種々の免疫細胞療法を主軸とし、その他の最先端のがん治療も取り入れた複合免疫治療を行う。
池袋クリニック、新大阪クリニックの2院において、標準治療では治療が難しい患者に対して、高活性化NK細胞療法を中心にした治療を行い、その実績は5,000例を超える。

関連記事

悪性腹膜中皮腫|死亡数が増加してきている希少がん

「手術でがんは取りきれた」なのに抗がん剤治療や放射線治療をする必要はあるのか

がんの標準治療に限界を感じた医師が「免疫療法」に見出した大いなる可能性

「生活の質」を意識した免疫細胞療法と標準治療の併用

pagetop