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悪性腹膜中皮腫|死亡数が増加してきている希少がん

悪性腹膜中皮腫とは、腹腔(お腹の内側)を包む腹膜という膜の表面をおおう中皮細胞から発生する腫瘍です。発症にはアスベストの関与が知られており、アスベストを吸ってから40年ほどで発症に至ることがわかっています。早期には無症状で、進行にともない腹痛や食欲不振、腹部膨満感といった腹部の症状があらわれます。

医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長 甲陽平

目次

悪性腹膜中皮腫とはどんな病気か

悪性腹膜中皮腫の検査、診断、ステージ、生存率は?

悪性腹膜中皮腫の治療は?

悪性腹膜中皮腫とはどんな病気か

悪性腹膜中皮腫は、腹腔(お腹の内側)を包む腹膜という膜の表面をおおう中皮細胞から発生する腫瘍です。

腹膜から発生するがんにはほかに腹膜がんがありますが、別の疾患です。

悪性腹膜中皮腫は腫瘍細胞の組織型診断によって、上皮型、肉腫型、二相型に分類されます。

年間の診断数は約840人と少ないがんですが(国立がんセンター 2014年報告より)、死亡総数で見ると1995年は約500人であったのに対し2013年は約1400人で3倍近くになっており(厚生労働省 2014年人口動態統計より)、年々増加傾向にあります。

悪性腹膜中皮腫の発症には、アスベスト(石綿)の関与が知られています。アスベストを吸うなどで暴露されてから、悪性腹膜中皮腫が発生するまで、平均で40年ほどの期間がかかるとされています。日本では1970年代~80年代にアスベストが多く使われていることから、発症のピークは2020年代後半と考えられています。

なお、アスベストが関与する中皮腫にはほかに悪性胸膜中皮腫があり、内訳としては8割程度が悪性胸膜中皮腫、2割弱が悪性腹膜中皮腫、残りがその他、となっています。

早期のうちは多くの場合自覚症状がなく、進行にともない腹痛や腰痛、食欲低下、腹水が溜まることによる腹部膨満感、腹部のしこり、排便の異常などの腹部の症状が出てきます。

[図表]中皮とは
中皮腫について

体腔(体内の空間)の内面と、体腔の中にある内臓等の器官の表面は、漿膜という薄い膜で覆われています。その漿膜の外側の層(上皮層)を形成しているのが中皮であり、そこに発生する腫瘍が中皮腫です。

悪性腹膜中皮腫の検査、診断、ステージ、生存率は?

悪性腹膜中皮腫が疑われる場合、確定診断を行うためには組織を採取して調べる組織生検が必要となります。ただし、腹部の症状が起こる悪性の疾患はほかにもありますので(例えば胃がんや大腸がん、腹膜がんなど)、それらと区別する(鑑別診断)ためには、血液検査や超音波、CTといった画像検査が必要です。

組織生検では悪性腹膜中皮腫の確定診断のほか、悪性腹膜中皮腫だった場合は、前項に挙げた腫瘍細胞の型(上皮型、肉腫型、二相型)も判別します。

腹膜や心膜の中皮腫は非常にまれな病気のため、病期(ステージ)分類はまだ決められていません(2018年の情報による)。

予後や治療の選択には、がんの大きさや性質、手術によってがんを完全に摘出できるかどうか、患者さんの全身状態などさまざまな因子により左右されます。予後の思わしくないがんの一つですが、上皮型は比較的予後が良く、10年以上生存の症例も報告されています。

悪性腹膜中皮腫の治療は?

悪性腹膜中皮腫は根治が難しい疾患の一つで、手術や放射線治療の効果は限定的とされています。薬物療法として、化学療法(抗がん剤治療)が治療の主軸のひとつとなっていますが、悪性腹膜中皮腫に限った治療の研究は多くありません。

そのため治療計画は、人数の多い悪性胸膜中皮腫の研究結果に基づき、悪性胸膜中皮腫で承認されている抗がん剤(ペメトレキセドやシスプラチン等)の組みあわせにより立てられることが多いです。

欧米では近年、比較的予後の良い上皮型や、病変が限局している(一か所にとどまっている)場合に、腫瘍切除(腫瘍減量手術)と腹腔内化学療法、温熱化学療法の併用で高い効果が得られている報告もありますが、治療法が複雑でどの施設でも行っている治療ではないことや、現在一般的に行われている化学療法と比較してどちらが優れているか現時点ではわかっていません。

まとめ

悪性腹膜中皮腫で起こる症状は、ほかの腹部の疾患でも起こるため、血液検査や画像検査で鑑別診断をしっかり行う必要があります。治療法については、患者数の少ない希少がんであることや難治性のがんであることから、より患者数の多い悪性胸膜中皮腫で使われる抗がん剤による治療が柱になっています。予後の思わしくないがんの一つですが、上皮型は比較的予後が良く、長く生存している症例も報告されています。

【甲 陽平(かぶと・ようへい)】
医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長
1997年、京都府立医科大学医学部卒業。2010年、池袋がんクリニック(現 池袋クリニック)開院。
「あきらめないがん治療」をテーマに、種々の免疫細胞療法を主軸とし、その他の最先端のがん治療も取り入れた複合免疫治療を行う。
池袋クリニック、新大阪クリニックの2院において、標準治療では治療が難しい患者に対して、高活性化NK細胞療法を中心にした治療を行い、その実績は5,000例を超える。

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