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GIST|消化管の壁の内部にできる悪性腫瘍のひとつ

GISTとは胃や腸、食道といった消化管の壁の中にできる悪性腫瘍のひとつです。「肉腫」に分類され、壁の内側の粘膜にできる「がん」とは区別されます。発症は10万人に1~2人程度ですが、60代以降に多い傾向があります。細胞の増殖に関わるタンパク質の異常がおもな原因で発症することがわかっています。

医療法人輝鳳会 理事長 池袋クリニック 院長

目次

GISTとはどんな病気か

GISTの検査、診断、再発リスクは?

分子標的薬の登場で大きく変わったGISTの治療

GISTとはどんな病気か

GISTはGastrointestinal Stromal Tumor(消化管間質腫瘍)の略で、消化管の壁の内部にできる悪性腫瘍のひとつです。

患者の割合は10万人に1~2人程度と少ないがんで、どの年代にも発生しますが60代以降に多い傾向があります。発生する部位は胃が多く、全体の4~6割とされていますが、小腸、大腸、食道など、消化管であればどこにでも発生する可能性があります。おもな発生原因として、細胞の増殖に関わるタンパク質の異常が挙げられています。

胃や大腸にできるとはいえ、胃がんや大腸がんといった消化器がんとは別の病気になります。消化器がんの多くは臓器のもっとも内側にある粘膜に発生しますが、GISTはもっと奥の筋肉層に発生する「肉腫」の一種とされ、腫瘍の性質も粘膜にできるがんとは違うのです。治療方法も異なるので、消化器がんとは区別しています。

[図表1]消化器がんとGISTの違い
消化器がんとGISTの違い

早期では多くの場合無症状で、進行にしたがい吐き気やむかつき、お腹が張るなどの症状があらわれることがあります。また腫瘍が大きくなることによる出血で、便が赤または黒くなったり、便の表面に血液がついたり(下血)、貧血などの症状が出たりすることもあります。

ただしいずれも、GISTに特有の症状ではないため見過ごされることも少なくありません。がん検診などでの造影X線検査や内視鏡検査を受けた際、たまたま見つかるケースも多いと言われています。

GISTの検査、診断、再発リスクは?

GISTの疑いがある場合は、CTやX線等の画像検査や内視鏡検査で腫瘍の場所や大きさ、形状などを調べます。ただ、それだけではGISTであると確定診断できませんので、内視鏡で組織の一部を採取したり、手術で腫瘍を摘出したりして病理検査(組織の性質を調べる)する必要があります。

手術の時点ではGISTかどうかわからなくても、その可能性が高い場合は基本的に手術の対象となります。なお、手術には開腹手術のほか腹腔鏡手術もあり、後者の方が体への負担は少ないとされていますが、腫瘍の場所や大きさ、数によって変わってきます。術式も含めた治療方針については医師とよく相談することが望まれます。

GISTの場合、腫瘍細胞の活発さと腫瘍の大きさが、再発・転移リスクを左右します。手術で目に見える範囲の病巣を取り除いた後、リスクが低い場合は経過観察、高い場合はアジュバント(術後補助療法)として分子標的薬による治療を行う場合があります。

[図表2]GISTのリスク分類(Miettinen分類)
Mitotic index Size 小腸 十二指腸 大腸
5以下/
50HPFs
2cm以下 None
(0%)
None
(0%)
None
(0%)
None
(0%)
5以下/
50HPFs
2cm超 5cm以下 Very low
(1.9%)
Low
(4.3%)
Low
(8.3%)
Low
(8.5%)
5以下/
50HPFs
5cm超 10cm以下 Low
(3.6%)
Moderate
(24%)
Insuff.
data
Insuff.
data
5以下/
50HPFs
10cm< Moderate
(10%)
High
(52%)
High
(34%)
High
(57%)
>5/
50HPFs
2cm以下 None High None High
(54%)
>5/
50HPFs
2cm超 5cm以下 Moderate
(16%)
High
(73%)
High
(50%)
High
(52%)
>5/
50HPFs
5cm超 10cm以下 High
(56%)
High
(85%)
Insuff.
data
Insuff.
data
>5/
50HPFs
10cm< High
(86%)
High
(90%)
High
(86%)
High
(71%)
  • Mitotic index:腫瘍細胞の活発さ。50HPFsあたりの視野で細胞分裂している細胞の数が多いほど、活発であることを示す。
  • 50HPFs(High-Power Field):高倍率の顕微鏡の視野で50個分の面積
  • Size:腫瘍の大きさ
  • (%):再発・転移の可能性
GIST診療ガイドライン2010年11月改定【第2版補訂版】.2010年:p24より改変

分子標的薬の登場で大きく変わったGISTの治療

GIST発症には、細胞の増殖に関わるタンパク質の異常が関わっているとお話しました。異常なタンパク質が無秩序に、細胞を増殖させる信号を出してしまうことが発症要因になっています。かつては予後不良とされていたGISTですが、そのタンパク質をターゲットにして、異常な働きを抑え込む分子標的薬が2003年以降、複数登場しており、予後の延長が望めるようになりました。

また、腫瘍は自分のところに栄養や酸素が運ばれるよう、イレギュラーな血管を伸ばしますが(血管新生)、分子標的薬の中には、この血管新生も防いで腫瘍を“兵糧攻め”、つまり栄養や酸素がいかないようにする作用を持つものもあります。

従来の抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)は、がん細胞とともに正常な細胞も攻撃してしまいますが、分子標的治療薬は腫瘍の増殖に関わる分子だけを狙い撃ちするため、正常な細胞へのダメージが少ないとされています。

これらの分子標的薬による治療は、手術ができない場合や、手術後の再発リスクを抑える目的で行われます。

まとめ

GISTの治療は手術を基本としますが、おもな原因となる異常なタンパク質が特定できたことで、そのタンパク質をターゲットとした分子標的薬が開発され、治療の選択肢が広がり予後の延長が見込めるようになりました。分子標的薬は腫瘍の増殖に関わる分子だけを攻撃するため、正常な細胞も攻撃してしまう従来の抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)に比べ、患者さんへの負担が少ないとされています。

【甲 陽平(かぶと・ようへい)】
医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長
1997年、京都府立医科大学医学部卒業。2010年、池袋がんクリニック(現 池袋クリニック)開院。
「あきらめないがん治療」をテーマに、種々の免疫細胞療法を主軸とし、その他の最先端のがん治療も取り入れた複合免疫治療を行う。
池袋クリニック、新大阪クリニックの2院において、標準治療では治療が難しい患者に対して、高活性化NK細胞療法を中心にした治療を行い、その実績は5,000例を超える。

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