肺がん検診の方法と有効性
がんは発見が早いほど予後がよく、完治に導けるがんも数多くあります。中でも、肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんの5つのがんは、検査で早期のうちに見つけやすく、かつ早期で治療すればがんで死ななくてすむ可能性がとても高いという2点を満たしており、国もがん死亡率減少を目的とした検診を推し進めています。ここでは肺がんについて、検診で用いられる主な検査方法と有効性を解説します。
医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長
目次
肺がん検診は「X線」および「X線+喀痰(かくたん)細胞診」
人間ドックなどで行われる胸部CT検査の有効性
腫瘍マーカーはオプション検査で
肺がん検診は「X線」および「X線+喀痰細胞診」
肺がんは日本において、もっとも死亡数の多いがんです(2017年人口動態統計によるがん死亡データより)。また、罹患数も多く、男女とも4位となっています(2016年厚労省全国がん登録より)。60歳ごろから急増し、高齢になるほど多くなります。
しかし、近年は治療技術の進歩により、早期に発見、治療すれば約8割の人の完治が見込めるようになりました。早期発見のためには症状が出ていないうちに、がん検診を定期的に受けることが大切です。
国の指針では、肺がんによる死亡を減らすことが証明されている検査方法として「胸部X線検査」およびタバコを多く吸うハイリスク群に対する「胸部X線検査+喀痰(かくたん)細胞診」が推奨されています。喀痰細胞診とは、痰に含まれる細胞を調べる検査で、基本的に3日間、起床時に痰をとり専用の容器に入れて提出します。
タバコを多く吸うハイリスク群には、次に挙げる喫煙指数が600を超える人が該当します。
喫煙指数 = 1日の喫煙本数 × 喫煙年数
また、40歳以上で6ヵ月以内に血痰のあった人もハイリスク群となり、X線+喀痰細胞診が奨められます。
上記の検診で、要精密検査となった場合は、胸部のCT検査や気管支鏡検査が行われます。気管支鏡検査では、口や鼻から気管支へ検査器具を挿入し、病変が疑われた部分を観察します。必要に応じて組織を採取する場合もあります。
[図表]肺がん検診のながれ
人間ドックなどで行われる胸部CT検査の有効性
肺がんを見つける検査方法には、ほかに胸部CT検査がよく知られています。人体を透過したX線をコンピュータ処理し体の輪切り画像をつくり、その画像を積み重ね立体化して、肺の状態を詳しく観察する検査方法です。近年は放射線量を減らした低線量CT検査が主流になってきています。
確かにCT検査ではX線検査に比べ、小さな病変を映し出す能力に優れており、病変のある場所もより正確にわかるという特長があります。また、肺の内部だけでなく、周辺の組織や骨の異常を見つけることも可能で、気管や食道の病気が見つかることもあります。こうしたことから、胸部CT検査を用いる検査施設も増えてきました。
ただし、小さながんが見つかる可能性がある一方で、がんかどうかわからない病変も多く拾い上げます。がんかどうかの診断が難しいことから、受診者が受ける被ばくなどのデメリットを、がんによる死亡が減るメリットが上回るかどうか現在のところ研究中です。そのため、国が推奨する対策型検診には入っていません。よって、受ける場合は自費による任意型の検診となります。
なお、胸部X線検査による放射線の被ばくが、人体に影響を及ぼすほど問題になることはありません。
胸部CT検査の具体的な方法としては、専用の台にあおむけになり、技師の指示に従って呼吸を10秒程度止めて、その間に撮影します。より鮮明な画像を得るために造影剤を用いる場合でも数十分程度、造影剤なしの場合は10分程度で終わります。
腫瘍マーカーはオプション検査で
体の中にがんが発生したり進行して大きくなったりしたときに、 ある特定のタンパク質が過剰につくられることがあります。 これを腫瘍マーカーと呼んでいます。
肺がんの腫瘍マーカーとしては、CEA、SCC、proGRP、NSE、Cyfra21-1などがあります。
腫瘍マーカーは血液検査で簡便に調べることができることから、人間ドックなどでのメニューに入っていることが多い検査項目です。
がん医療では、腫瘍マーカーは、がんの治療後の経過や再発の確認などを行う際に用いられます。しかし、この検査だけではがんの有無や状態を正確に判断することはできませんし、逆に、がんがあっても腫瘍マーカーが異常を示さないこともあります。
したがって、血液で簡単に調べられるといっても、これでがんの早期発見ができるというわけではありません。あくまでも胸部X線検査などの対策型検診を受けていることを前提に、オプションとして加えることが望まれます。結果については検査を受けた医療機関から説明を受け、判断することが望まれます。
まとめ
自治体や職場で受けられる肺がんの検診方法にはX線検査およびハイリスク群に対するX線+喀痰細胞診検査があります。 胸部CT検査は小さな病変を映し出し、肺周辺の組織の病変の発見も可能なので、X線検査より早期発見を見逃す確率が低いといえます。しかし、がんによる死亡減少効果が明らかになっていないため、今のところ対策型検診には入っていません。なお、腫瘍マーカーは血液検査で比較的簡単に調べられますが、これだけではがんの発見には不十分ですので、他の画像検査のオプションとして検討するのが良いでしょう。
【甲 陽平(かぶと・ようへい)】 医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長 1997年、京都府立医科大学医学部卒業。2010年、池袋がんクリニック(現 池袋クリニック)開院。 「あきらめないがん治療」をテーマに、種々の免疫細胞療法を主軸とし、その他の最先端のがん治療も取り入れた複合免疫治療を行う。 池袋クリニック、新大阪クリニックの2院において、標準治療では治療が難しい患者に対して、高活性化NK細胞療法を中心にした治療を行い、その実績は5,000例を超える。 |