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膵臓がん|早期発見が難しい難治性がんだが、昨今は有効な治療法開発も活発に

膵臓がんは消化器がんの中でも早期発見が難しく、難治性がんのひとつです。慢性膵炎や糖尿病、近親者に膵臓がんを患った人がいるなどがリスク要因とされています。膵臓がんの中でも膵頭部がんという種類のがんの場合、黄疸や便の色の異常で発見されることがあります。

医療法人輝鳳会 理事長 池袋クリニック 院長 甲陽平

目次

膵臓がんとはどんな病気か。原因、自覚症状は?

膵臓がんのステージと治療

膵臓がんに対する新たな治療法の開発

  • 重粒子線治療とは
  • ナノナイフ治療とは

膵臓がんとはどんな病気か。原因、自覚症状は?

膵臓は胃の裏側に位置する、20㎝ほどの横に細長い臓器です。大きく3つの部位に分けられ、右側から頭部、体部、尾部と呼ばれています。

膵臓がんは、膵臓の中を網の目のように走っている膵管と呼ばれる管から発生するものが9割以上を占めます。また、3分の2以上は膵頭部に発生するとされています。

[図表1]膵臓の構造
膵臓

膵臓周辺には血管や神経が集中しており、肝臓等の重要な臓器も近くにあります。そのため、早期発見が困難である上、小さながんでもすぐに周囲の血管、胆管、神経等への浸潤や、近くのリンパ節への転移、肝臓などへの遠隔転移を伴うことが多いのが特徴です。これらの理由から、消化器がんの中でも悪性度が高く、予後不良のがんとされています。

発症は60歳以上の男性にやや多い傾向があります。原因は明らかではありませんが、慢性膵炎、糖尿病、喫煙、肥満、近親者に膵臓がんを患った人がいるなどが、リスク要因として挙げられています。

膵臓がんは早期のうちには自覚症状がなく、腹痛や腰背部痛があらわれ受診する段階では、進行していることがほとんどです。その他の自覚症状としては、食欲不振、体重減少などがあります。

膵頭部がんの場合は、これらに加え、黄疸や便が灰白色になるなどが特徴です。膵頭部にがんができると、中を通る胆管を圧迫するなどで、胆汁の通過障害を起こすためです。これは膵体部や尾部のがんに比べ早めに見られる症状なので、黄疸(白目が黄色くなるなど)や便の色に異常が見られたらすぐ消化器科を受診することが重要です。

一方、膵体部や尾部に発生したがんは症状があまり現れず、腹痛が起こったときにはかなり進行していることが少なくありません。

がんが進行し十二指腸や小腸に浸潤すると、狭窄や閉塞による内容物(便)の通過障害が起こります。また、膵管も圧迫され二次性膵炎を起こし糖尿病になったり悪化したりすることがあります。

膵臓がんのステージと治療

膵臓がんが疑われる場合には、超音波検査やCT、MRIといった画像検査、および血液検査や組織検査なども検討され、総合的に判断されます。膵臓がんと診断された場合には広がりや深さ、リンパ節や他臓器への転移の有無を調べ、治療計画が立てられます。病期(ステージ)については、日本膵臓学会が定めた分類と国際的に使われている分類があり、両方を検討の上決定されます。

[図表2-1]膵臓がんの病期(日本膵臓学会)
 領域リンパ節への転移離れた臓器への転移がある
なしあり
大きさが2cm以下で膵臓内に限局しているIAⅡB
大きさが2cmを超えているが膵臓内に限局しているIB
がんは膵臓外に進展しているが、腹腔(ふくくう)動脈や上腸間膜動脈に及ばないⅡA
がんが腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈へ及ぶ
日本膵臓学会編「膵癌取扱い規約 2016年7月(第7版)」(金原出版)
[図表2-2]膵臓がんの病期(UICC第8版)
 領域リンパ節への転移離れた臓器への
転移がある
なしあり
1~3個4個以上
大きさが2cm以下ⅠAⅡB
大きさが2cmを超えているが
4cm以下
ⅠB
大きさが4cmを超えているⅡA
がんが腹腔動脈、
上腸間膜動脈
もしくは総肝動脈へ及ぶ
0期:がんが膵管の上皮内にとどまっている(非浸潤がん)
出典:UICC: TNM Classification of Malignant Tumours, 8th Edn. Wiley-Blackwell; 2017.94-95.

膵臓がんの標準治療には手術、放射線、薬物療法の3つがあり、ステージや全身状態などを考慮して選択あるいは複数を組み合わせて行われます。前述の通り、膵臓がんは早期発見が難しいがんです。そのため診断された際にはすでに進行し、転移していたり、転移はなくても近くにある太い血管を巻き込んでいることも多く、7割前後は切除不能とされています。手術ができない場合や、再発した場合、複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法が症状の緩和や予後の延長に効果があるとして推奨されています。病状により放射線治療を加えた治療(化学放射線療法)が行われることもあります。

なお、化学療法は、手術ができた場合でも再発予防や予後の延長に効果があるとして推奨されています(術後化学療法)。

膵臓がんに対する新たな治療法の開発

膵臓がんは、消化器がんの中でも難治性のがんのひとつですが、昨今、有効な治療法の開発が活発に行われています。一例として、国内では重粒子線治療が先進医療として一部の医療機関で行われているほか、海外ではすでに使われているナノナイフ治療が、一部の医療機関で実用化を目指した臨床研究として行われています。

重粒子線治療とは

重粒子線とは放射線の一種で、炭素イオンを用いた重い粒子の流れです。X線に比べ2~3倍の細胞殺傷力を持つとされています。さらに、体の中の一定の深さで線量がもっとも強くなり、病巣にエネルギーを集中させることができます。よって、体表や正常な細胞への影響を最小限に抑え、深部のがん病巣に集中的に照射できます。

ナノナイフ治療とは

細い針を数本、がんを取り囲むようにして刺し、高電圧で通電することでがん細胞にナノサイズ(100万分の1mm)の穴をあけ、死滅させる治療法です。

開腹手術の必要がなくがんを死滅させることができる、体にやさしい治療法です。熱を使わないので、周囲の組織へのダメージも少ないのが特徴です。また、がんが再び大きくなったら何度でも治療可能であることもメリットのひとつです。

欧米ではすでに実用化されており、おもに膵臓がんや肝臓がん、前立腺がんの治療に使われています。米国のではナノナイフ治療後、約4分の1の症例で、切除が可能になったとの報告もあります。また、ナノナイフ治療+抗がん剤治療を行うと、抗がん剤治療だけの場合よりも2倍の延命効果が期待できるとされています。

なお、ナノナイフ治療は日本でも一部の医療機関で臨床研究(自費診療)として実施されています。

免疫チェックポイント阻害薬については、2018年に、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)が膵臓がん治療薬として承認されました。ただし、標準治療が困難かつMSI-H陽性という組織タイプのがんのみに適応が限られており、膵臓がん全体の1~2%ときわめて少数にとどまっています。

まとめ

膵臓がんの標準治療は手術、放射線、薬物療法の3つですが、発見されたときには手術不能であることが多いのが現状です。複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法および、化学療法と放射線療法の併用が予後の延長に効果的とされています。手ごわいがんとして知られていますが、新しい治療法が国内外で開発、実施されており、今後に期待されます。

【甲 陽平(かぶと・ようへい)】
医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長
1997年、京都府立医科大学医学部卒業。2010年、池袋がんクリニック(現 池袋クリニック)開院。
「あきらめないがん治療」をテーマに、種々の免疫細胞療法を主軸とし、その他の最先端のがん治療も取り入れた複合免疫治療を行う。
池袋クリニック、新大阪クリニックの2院において、標準治療では治療が難しい患者に対して、高活性化NK細胞療法を中心にした治療を行い、その実績は5,000例を超える。

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