大阪の大学が「笑い」で証明。がん治療の鍵は自律神経を整えること
私たちの身の回りには細菌やウイルスがたくさん存在していますが、「免疫」の機能によって有害な物質を身体から排除し、健康を維持することができています。遺伝子異常であるがん細胞にも免疫が働き、攻撃をする働きがあることから、がんの治療や予防にも大きな役割を果たしています。
そんな私たちの身体を守る免疫の力ですが、実は「自律神経」のバランスによって大きく左右されることが分かっています。自律神経が乱れると免疫の力が下がり、病気になりやすい身体となってしまうのです。これはがんの治療においても同様で、自律神経の乱れが起こると、がんと戦う力が損なわれてしまいます。
そこで今回は、自律神経とは何なのか、その基本的な知識と、免疫力を下げないために自律神経を整える方法についてご紹介します。
目次
自律神経のバランスが免疫力を左右する。その密接な関係とは
ストレスが自律神経の働きを乱し、心身のトラブルを引き起こす
ストレスのレベルが高いとがんの罹患リスクが高まる
自律神経を整え免疫力を高める! 日常生活で気をつけたい四つのこと
「笑い」はがん治療に効果あり! 漫才・落語を使った研究報告
自律神経のバランスが免疫力を左右する。その密接な関係とは
人の体の中では毎日、3,000~6,000個ものがん細胞が生まれています。誰もが、がん細胞を身体の中に抱えながらも、多くの人ががんになるのを免れているのは、免疫の力によってがん細胞と戦い、死滅させているからです。では、その免疫の仕組みについてもう少し詳しく見ていきましょう。
免疫細胞は血液中やリンパ液中、腸管や脾臓などの組織に存在していますが、血液中の免疫細胞は白血球と呼ばれる細胞群のことを指します。その中には主に顆粒球、リンパ球、単球の3種類の細胞がいます。単球から変化したマクロファージは異物を貪食してリンパ球に司令を出すとともに、リンパ球と異物の戦い後の処理も担っています。リンパ球は、細菌などが体内に侵入すると、マクロファージから情報を得て異物の存在を認識し、攻撃の準備をします。顆粒球は殺菌作用のある顆粒を持っており、自らの細胞内に細菌を取り込み破壊し、消化してしまいます。
この免疫細胞の働きに大きな影響を与えているのが自律神経です。自律神経は交感神経と副交感神経に分けられ、両方がバランスをとりながら働いています。
免疫細胞が存在する白血球は、自律神経の支配下にあります。交感神経が優位になると顆粒球が増え、副交感神経が優位になるとリンパ球が増えるとされていて、この両方がバランスよく働くことで、免疫細胞それぞれの役割が機能します。そのため、自律神経が乱れてしまうと、免疫力も下がってしまうのです。
ストレスが自律神経の働きを乱し、心身のトラブルを引き起こす
交感神経と副交感神経のバランスが、免疫の力を高めるためにとても重要な存在となっていますが、この二つのバランスが崩れてしまう要因があります。「ストレス」です。
人はストレスを感じると、副腎皮質から副腎皮質ホルモンを分泌するよう脳から司令が発せられます。このホルモンは、免疫の抑制や、血圧の上昇、胃酸分泌の促進などの作用に影響を与えていて、これらの作用が過剰になると、心身のトラブルを引き起こします。
現代人はストレスを感じやすい環境に囲まれて生活をしています。何にストレスを感じるかは、人それぞれの考え方や性格によって大きく異なりますが、対人関係の悩みや過重労働、温度・匂い・音といった生活環境など、要因はさまざまです。
ストレスのレベルが高いとがんの罹患リスクが高まる
ストレスによる自律神経の乱れは、がん治療にも影響します。ストレスにより交感神経優位の状況が続いた場合、顆粒球が増えすぎてしまいます。すると顆粒球中の活性酸素が増加し、がんの発生や転移、再発がしやすい環境になってしまいます。さらに、免疫機能の一翼を担うリンパ球の働きを抑制してしまうことも報告されています。慢性的なストレスを抱えている状態は、がんが発生しやすい状態にあるということです。国立がん研究センターの調査報告でも、自覚的なストレスのレベルが高いと、すべてのがんで罹患リスクが高くなると報告されています。
自律神経を整え免疫力を高める! 日常生活で気をつけたい四つのこと
がんの治療・予防においても重要な役割を担っていることから、免疫力を低下させることは、ぜひとも避けたいものです。そこで、交感神経と副交感神経のバランスを崩す元凶である、ストレスをなるべく軽減することが大切です。
日常生活で気をつけたい四つのこと
①正しい生活リズムを身につける
夜は0時までには就寝し、早起きを心がけましょう。就寝直前までスマホを使ったり、過度のアルコールを摂取したりすると就寝の妨げになり、睡眠そのものの質も低下させます。また、朝起きたら朝日を浴びて体内時計をリセットすることもオススメです。
②自分なりのストレス解消法を見つける
人によって趣味が異なるように、ストレス解消の方法も人それぞれです。自分に合った方法を考えてみましょう。親しい人と会話を楽しむ、読書・映画鑑賞など、日常でストレスを自覚したとき「これをする」と決めておくと、ストレス解消が上手に行なえるようになります。
③体を動かす時間をつくる
イライラしていると感じたら、一度、深呼吸をしてみましょう。ストレッチをして体をほぐすなど、小さなことでも気分転換になります。また、散歩など適度な運動も有効です。
④体を冷やさない
体の冷えは、自律神経の乱れを引き起こします。冷えが原因の下痢あるいは便秘、肩こり、腰痛、生理不順などの不快な症状は、免疫力の低下へとつながります。冬はもちろん、夏も冷房対策をして冷え対策をしましょう。
「笑い」はがん治療に効果あり! 漫才・落語を使った研究報告>
交感神経と副交感神経の働きを整えるためには、ストレスを軽減しリラックスすることが重要です。その方法として近年注目されているのが、「笑う」ことです。
2017年5月に大阪国際がんセンターが、がん患者の免疫機能や生活の質などに「笑い」の機会が与える影響を検証する実証研究を実施しました。この研究では、関西に拠点を構える「吉本興業」や「松竹芸能」協力の元、2週間に1回、院内のホールで落語や漫才を開催。血液検査などで免疫機能や生活の質にどのような影響を与えるか調査したものです。
この研究によると、漫才や落語を鑑賞して笑うと、免疫細胞の一種であるNK(ナチュラルキラー)細胞が活性化され、免疫力がアップしました。逆にストレスや悲しみなどのマイナス感情を引き起こす情報を受け取ると、NK細胞の働きが弱くなることも報告されています。しかも、“作り笑顔”を続けるだけでも、NK細胞が活性化するという実験結果も出ています。まずは口角をあげて笑顔の表情をつくってみる。日常生活を笑顔で過ごす意識によって、免疫力アップが期待できるのです。
まとめ
「病は気から」などとよく言われますが、心と健康は深いつながりがあります。その仕組みを紐解いていくと、今回ご紹介したように、ストレスなどで自律神経が乱れると免疫力が低下し、健康の維持が難しくなるというわけです。また、がんの治療においても自律神経を整えて免疫力を保つことは大切です。
自分がどのような時にストレスを感じるのか、またどのようなときにリラックスできるのかを振り返り、ストレスの軽減・解消を心がけましょう。