「QOL」とは? 医療の進歩によって増える患者にとっての選択肢
治療を進める中で「QOL」という考え方がよく話題に上ります。そもそもQOLとは何か、そしてQOLを高めるにはどうしたらよいか。医療の進歩に伴い、できることや考え方もどんどん変わっています。今の自分にとってベスト、ベターな選択を様々な視点を踏まえて考えて見ましょう。
目次
苦しさに耐えることだけが治療ではない
免疫療法、緩和ケアなど選択肢を把握する
QOL向上のためには精神面や栄養面のサポートも必要
苦しさに耐えることだけが治療ではない
QOLとは、「Quality of Life」、直訳すると「生活の質」。人間らしい生活を送れるか、自分の満足する時間が過ごせているか、人生に幸せを見いだせているかという概念のこと。
がんの医療現場では、治療、延命を最優先にするばかりに「QOLが低下する」ことも多く、患者の痛みに対しての対応が十分ではありませんでした。がんの標準治療として認められている抗がん剤治療は、がんが小さくなったとしても副作用で体を動かすことができなかったり、食事をすることができなかったりといったケースもあります。患者も「仕方がない」と我慢するしかないとあきらめています。
また、がんの再発による絶望感からどうしたらよいのか分からず治療に前向きになれない患者もいます。誰にも心のうちを話せず孤独感のなか、心の疲労が積もるばかりです。
現在では、苦痛を伴う治療や精神的な負担を少なくするために努力し、「QOLを高める、向上させる」といった考え方が「がんを治す」ことと同じく、患者にとって大切なこととして考えられています。
「QOLを高める、向上させる」と一言でいっても人によって異なります。副作用が少ない、治療後の生活が制限されない、生きがいをもって生活をする、社会とのかかわりを持ちたいなど、QOLの条件に含まれることは無限にあります。また、患者の病状が異なれば、その内容も変わってきます。
早期がんならば「日常生活が不自由なく行える」をイメージするでしょうし、進行がんで寝たきりの状態の患者ならば「まず上半身を起こせるようになろう」など、一人ひとり違います。まずは自分にとってのQOLに向き合ってみましょう。自分の病状を理解し、どうしたい、どうなりたいか。情報を集めるのはもちろんですが、主治医や周りの人に相談しましょう。
免疫療法、緩和ケアなど選択肢を把握する
患者が「治療で受けるメリット」には、がんの大きさや生存期間だけではなく、「高いQOLが受けられた」ということも入ってくるべきですし、考えたいものです。
患者の病状にもよりますが、現在では通院で行える抗がん剤治療も増えています。副作用に気をつけ、副作用を抑える薬を飲みながら、健康な人と同じようにとはいきませんが、仕事をしたり、家事をしたり、子育てをする、という日常生活を送ることも可能です。
体への負担を少なくするために標準療法と併用して免疫療法を行う、身体的な苦痛を和らげるために緩和ケアを受けるなど、近年の治療現場では選択肢が増えてきています。我慢するだけでなく、充実した生活を送るうえで何を大切にしたいのか考えてみてください。
QOL向上のためには精神面や栄養面のサポートも必要
前述した緩和ケアは、がん診療連携病院、緩和ケア病棟がある施設で受けることができます。外来、在宅どちらでも可能です。がんの治療が一段落しても痛みや不安を感じる場合は、緩和ケア外来を受診、介護する家族が都合のつかないときは、ショートステイやデイケアとして緩和ケア病棟を利用することも可能です。緩和ケアで行われている治療のほとんどは、病院でも自宅でも変わらず行うことができます。緩和ケアはどこでも受けることができるのです。
がん治療と並行して緩和ケアを受ける場合は、「緩和ケアチーム」によるサポートを受けることになります。主治医と緩和ケアチームの医師が協力して進めます。緩和ケアが体の痛み、辛さだけでなく、気持ちの落ち込み、孤独感などの心の問題、そして家族や社会との関わり方(仕事)などにも及ぶため、チームのメンバーの職種は多岐にわたっています。
緩和ケアチームには下記のような専門家がいます。
●医師
肉体的な痛みの緩和を担当する医師と、精神面の治療を担当する医師
●看護師
患者や家族の日常生活全般のアドバイスをする
●薬剤師
痛みなどを和らげる薬についての助言薬物療法のアドバイスや指導をする
●ソーシャルワーカー
療養に関わる助成制度や経済的問題、仕事や家族などの社会生活についての相談を受ける
●心理士
気持ちの問題などについてカウンセリングをする。心理検査や家族のケアも行う
●栄養士
食事の献立や調理法、味つけなどのアドバイスをする
がんの治療を受けながら、厚生労働省から認可を受けた緩和ケアチームによる診療を受ける場合には、入院に関わる医療費などに加え、「緩和ケア診療加算」として定額の費用が必要です。「1日あたりの金額×健康保険の自己負担率」が医療費に加算されます。
1カ月の医療費の合計が一定額以上となる場合には、高額療養費制度を利用することもできます。自己負担限度額を超えた分は、払い戻しを受けることが可能です。また、食事代などが必要になることもあります。
まとめ
治癒に時間がかかるとしても、がんとうまく付き合いながら、QOLの高い生活ができる選択肢は増えています。医療がどんどん進化し、痛みに耐えなければいけない治療法ばかりではありません。医師や家族に、自らの治療を進めるにあたって最も大切にしたい考え方を伝え、治療法方について検討・相談しましょう。