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「痛み」と「ストレス」は治療効果を著しく下げる

がん治療による手術のあとは、しばらく痛みを感じるでしょう。この痛みが大きいと、治療予後が悪くなることがわかっています。術後の痛みは我慢せず、取り除くための対処を、しっかりと行うことが重要です。今回は痛みと治療予後の関係、痛みとの向き合い方について解説します。

目次

痛みをコントロールすることができれば、生存期間も長くなる

手術であっても、がん細胞とは体全身で戦う

手術後の痛みを取り除く方法

心理的ストレスが死亡リスクを高める

まとめ

痛みをコントロールすることができれば、生存期間も長くなる

がんの手術を行うと、傷に痛みを伴うことになります。特に、傷が大きい開腹手術は痛みも強くなる傾向にあります。この痛みを感じる度合いと、治療後の生存率との関係について調査した結果、痛みを強く感じていた人ほど予後不良となることがわかりました。

2009~2014年にすい臓がんの手術を受けた221人の患者を対象として調査し、術後の痛みを1日おきに問診によって評価しました。痛みの程度は11段階で記録し、術後1~3日目の痛みの平均と術後5~7日目の痛みの平均を算出しています。術後5~7日目に痛みが減少している患者を「痛みのコントロール良好」、痛みが増している患者を「痛みのコントロール不良」と定義しています。すると、痛みがコントロールできていた患者のほうが、生存期間が27ヵ月長くなるという結果が出ました。手術後の痛みの増大は予後不良因子となり、治療成果に影響を及ぼすと考察されています。(World J Gastroenterol 2017;23:676-686)

年配の患者さんのなかには稀に、「痛み止めを使うと治りが遅くなる」と考えている方もいらっしゃいます。これは間違いであり、痛みを取り除き心身の負担を軽減することが、高い治療効果を実現するのです。

手術であっても、がん細胞とは体全身で戦う

術後の痛みは患者さんのストレスとなります。ストレスはホルモンバランスを崩し、免疫力を低下させることから、がんの進行が早まる可能性を指摘されています。つまり、手術によってがんを取り切れたかどうかだけが手術の成功ではなく、術後の痛みのコントロールまでが、がんの手術治療といえそうです。特に、目に見えないがん細胞が体に残っている疑いがある場合は、ストレスのコントロールも重要となるのではないでしょうか。

がん手術を行う際には、取り切れなかったがん細胞も死滅させるために、抗がん剤を組み合わせることもありますが、これと同じく、全身でがん細胞と闘うことが大切なのです。

手術後の痛みを取り除く方法

痛みが治療予後に影響を与えることが認知され、医療現場のスタッフの意識も変わってきたと思います。以前よりも痛みを軽減するための方法が充実してきており、処置に対する教育にも時間がかけられるようになりました。

術後は痛みを抑えるために痛み止めの薬が処方されます。痛みの感じ方には個人差があるため、処方された薬の量だけでは十分に痛みが取れないといった場合もあるでしょう。

痛みにも種類があり、医師や看護師は患者さんの痛みの程度を聞き出すのに慣れていますので、質問に答えることで把握することができますが、我慢しすぎることなく、痛みの状態を正直に医師や看護師に患者さん自身の口から伝えることで、その人にあった薬の量を調節し、対処法を検討してくれるはずです。

下記に挙げるような、伝わりやす痛みの表現方法を知っておくとよいかもしれません。

■どんなときに
 起き上がったとき、歩いているとき、寝ているとき
■どんなふうに
 きりきり痛い、ズキズキする
■困っていること
 眠れなくて困る、食事が摂りにくい、人付き合いに支障が出ている

医師や看護師は、それぞれの痛みの種類にあった対処方法について検討しアドバイスをしてくれます。我慢せず、しっかりと伝えることが、痛みを軽減する近道となります。

心理的ストレスが死亡リスクを高める

「病は気から」などといいますが、がん治療においても心理的なストレスを抱えている患者さんのほうが再発しやすく、治療予後が悪いといわれています。イギリスで1994~2008年に行われた臨床研究では、16万3363人の患者を対象に、心理状態とがんの死亡率の関係について調査されました。この調査によると、心理的ストレスが強い人は心理的苦痛が弱い人に比べて死亡率が30%も高いという結果が出たのです。(BMJ 2017;56:j108)

この調査によって、心理的ストレスががんの死亡率の上昇の予測因子になることが明らかになりました。

まとめ

心理的ストレスが、治療の予後不良因子となることは明らかです。術後に強い痛みを感じる人は我慢しすぎずに主治医と相談するようにしましょう。本当に痛いときにはナースコールを遠慮せずに押し、病院スタッフの方にサポートしてもらいましょう。

また、治療中は不安やうつ状態が続くこともありますが、少しでも精神的な負担を減らせるよう行動を起こすことも大切です。不安を解消することは簡単なことではありません。それでも、家族や周囲の人と話をしたり、気晴らしに趣味に没頭する時間を作るなど、ふさぎ込みすぎないように意識を持って過ごすようにしましょう。主治医や看護師に相談することで、その時々のあなたに必要なアドバイスをしてくれるかもしれません。

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