手術は早く受けるべき?診断から手術までの期間の考え方
がんと診断されてから手術までの期間は状況によって異なりますが、多くの場合は1週間から1ヶ月ほどのようです。患者さんによっては、1ヶ月以上待機期間があることもあります。そんななか「手術を受けるまでの間にがんが大きくなってしまうのではないか…」「早く取り除きたい」と考えるかもしれません。
手術は一刻も早く実施するべきなのでしょうか。診断から手術までの期間の考え方と、手術の時期が遅くなるリスクについて解説します。
目次
がん種類によって異なるリスク。乳がんは早期手術が必要
手術開始を急ぐ必要がないケースも
治療待ち期間にできること
まとめ
がん種類によって異なるリスク。乳がんは早期手術が必要
がんと診断されたらすぐに手術を受けるべきなのでしょうか。韓国で14万7,682人のがん患者を対象とした大規模な研究が行われましたが、がんの部位によって異なるという結果になりました。(Oncol 2012;23:2731-2737)
患者数の多い代表的ながん「胃がん」「結腸がん」「直腸がん」「膵臓がん」「肺がん」「乳がん」の患者のうち、診断から治療まで1ヶ月以上待機期間があった場合の影響について調べた結果、「乳がん」で死亡リスクが59%高まり、「直腸がん」で死亡リスクが28%高まりました。一方で「胃がん」「結腸がん」「膵臓がん」「肺がん」では腫瘍の大きさに成長が見られたものの、死亡リスクには関連はほとんど見られないという結果でした。このことから、がんの部位によって性質が異なり、治療スタートまでの待ち時間のとらえ方が異なることが分かります。
アメリカで乳がん患者9万4,544人を対象に、診断から手術までの期間を「30日以内」「31日~60日」「61日~90日」「91日~120日」「121日~180日」の5つのグループに分けて行われた調査があります。ここで、「30日以内」「31日~60日」のグループは、「61日~90日」「91日~120日」のグループに比べて生存率が6%高かったというデータが出ました。乳がんは特に早期の治療が必要ながん種類であり、診断から手術までの期間が長くなると生存期間が短くなると結論づけられています。(JAMA Oncol 2016;2: 330-339)
一方で、膵臓がんについてイタリアで行われた研究では、手術までの期間の長さでは生存率や死亡リスクに差はないという調査結果が出ています。(HPB Oxford 2018;20:411-417)
診断後手術まで30日以上待機した患者と、30日未満に手術を行った人を分けてCT検査で腫瘍を観察しました。するとがんの大きさは、診断後30日以上待機した患者では平均3mm大きくなっていて、30日未満で手術を実施した患者は平均1mm大きくなっていました。手術をする日までに確実にがんは大きくなり成長しているのです。しかし再発率と生存期間を調べたところ、手術まで30日以上待機した患者は再発率48.8%と生存期間31ヶ月、30日未満でに手術を行った患者の再発率は48.9%と生存期間29ヶ月とほとんど差異が生まれないという結果が出ました。膵臓がんの手術は難易度が高く、合併症リスクを下げることにも気を遣わなければならないことから、そのタイミングはとても重要です。患者さんの体調など環境をしっかりと見極めて実行することが大切なのであって、手術を急ぐことにメリットはほとんどないということが分かりました。
手術開始を急ぐ必要がないケースも
がんの種類によって、手術を急ぐべきケース、急がなくて良いケースがあることが分かりました。ただし、患者さんごとに状況は異なります。不安を感じた場合は医師に手術実施日について相談し、自分に必要な治療を把握するようにしましょう。
例えば、がん以外の持病を抱えている患者さんの場合、まずは持病の治療をしてからでないと安全に手術が行えないこともあります。もしくは体調が優れない場合は、時間を空けて体力が回復してから手術に踏み切るという選択肢もあるでしょう。少しでも体調面を整えて手術に踏み切ったほうが、合併症などのリスクを下げることができます。
また、手術前に抗がん剤を使用して腫瘍を小さくしてから手術を実施するという方法は、多くの現場で採用されています。診断されてからまず抗がん剤治療を行うことで、手術までの期間は必然的に長くなりますが、これも目的をしっかりと持った選択であるため否定されるものではありません。
治療待ち期間にできること
治療スタートまでにできることはたくさんあります。病院では治療を受けるにあたっての検査を進めていきます。決して何もせずに過ごすわけではありません。
働いている人は、入院中の職場の負担を減らすために引き継ぎをする必要があるかもしれません。治療までの生活では、睡眠や栄養をしっかりと取り、体調を整えることも大切です。病気のことについて勉強し、理解を深める時間にあてることも良いでしょう。日常生活でも計画を立てて、自分ができることを実行しましょう。
まとめ
患者さんごとに状況は異なります。体調を整えて手術に臨むべきケースや、手術前の抗がん剤治療実施によって、手術までの期間が長くなってしまうことも考えられます。不安を感じた場合は主治医に相談することで、理由を説明してくれるでしょう。先延ばしにしない方法がないか、親身に相談にのってくれるはずです。手術までの期間にできることはたくさんあります。焦らず一日一日を過ごし、万全の状態で手術に臨むようにしてください。