ノーベル賞で脚光を浴びた「オプジーボ」を知る
がん治療において「夢の薬」ともいわれるオプジーボ。2018年のノーベル賞受賞、そして、高額で知られていたオプジーボが3度の値下げにより大幅に価格が下がったことも加わり、一層注目を集めています。保険適用された当初、年間3,500万円とされた薬剤費が、3分の1以下の1,090万円となりました。しかし、すべてのがんに適応しているわけではなく、副作用も考えられます。まずはオプジーボに対して理解を深め、自分に何が一番合うか考えてみましょう。
目次
がん免疫療法の進展に多大な貢献を果たしたオプジーボ
T細胞の攻撃にブレーキをかける部分にピンポイントで作用
オプジーボの適応拡大。注意したい副作用
がん免疫療法の進展に多大な貢献を果たしたオプジーボ
2018年のノーベル生理学・医学賞を本庶佑・京都大学特別教授が受賞しました。その研究成果は「がん免疫療法に道筋をつけ、人類のがんとの闘いにおける記念碑である」と高く評価されています。そして、本庶氏の研究成果を基に開発されたがん治療薬が「オプジーボ」です。世界に先行し、2014年7月には皮膚がんの一種である悪性黒色腫に、2015年12月には肺がんの一種である非小細胞肺がんにも適応となりました。いずれも、従来の抗がん剤が効きにくい難治性のがんに対する新薬として実用化されたのです。
本庶氏のノーベル賞受賞理由は「免疫抑制の阻害によるがん療法の発見」とされ、従来の免疫療法の戦略にはない「発想の転換」によって生まれたといわれます。オプジーボの原理や仕組みを理解するには、まず、免疫とはなにか、がん免疫療法とは何かを理解することが近道です。人間の体内では、健康な人でも1日3,000個とも6,000個ともいわれるがん細胞が生まれています。しかし、多くの人ががんを患うことがないのは、その大半を体内の免疫細胞がすばやく見つけて排除しているからです。がんが体内で成長してしまうのは、免疫細胞の監視や攻撃をがん細胞が巧みに避けてしまった場合です。このメカニズムに着目し、がん細胞を排除するために免疫力を高め治療をしようというのが、がん免疫療法です。
まず、研究が進んだのが、がんに対する免疫細胞の攻撃力を高める方法です。免疫細胞の攻撃力を高める方法は大きく2つに分かれます。一つは、患者の体内で免疫を高め、がんに対する攻撃を強める方法で、能動免疫療法といわれます。もう一つが、体内ではがんにより免疫のはたらきにブレーキがかけられていることを考慮し、患者の血液から免疫細胞を取り出し、体外で免疫細胞を増やしたり、免疫力を活発にしたりしてから体に戻す方法で受動免疫療法といわれます。こうした免疫の攻撃力を高めることを目的とした治療法は、1970年代から登場し、様々な方法が提案・開発されてきました。
T細胞の攻撃にブレーキをかける部分にピンポイントで作用
一方、研究が進展するとともに、がん細胞が、免疫細胞からの攻撃にブレーキをかけ、免疫細胞から逃避する戦略をとっていることがわかってきました。本庶氏が発見した「PD-1」は、まさにその免疫の働きを抑えるブレーキになる分子の一つだったのです。こうした働きをする分子の一群を「免疫チェックポイント分子」と言います。がん細胞の表面には「PD-L1」という分子があり、この分子ががん細胞を攻撃するT細胞にあるPD-1に結合することで、T細胞の攻撃力にブレーキをかけ、T細胞の攻撃から逃れていたのです。
つまり、PD-1とPD-L1が結合することができないようにすれば、がん細胞はT細胞の攻撃にブレーキをかけることができません。そこで、PD-1のPD-L1と結合する部分(受容体)にふたをする抗体である、免疫チェックポイント阻害剤の開発が始まりました。こうして、様々な困難を乗り越え開発されたのが、オプジーボなのです。
オプジーボは、T細胞の攻撃にブレーキをかける部分にピンポイントで作用し、PD-1のPD-L1との結合を邪魔し、T細胞ががん細胞を攻撃する力(免疫)を再び活性、いわゆる免疫力を高めます。オプジーボは様々ながんの治療で劇的ともいえる効果を発揮し、がん免疫療法が、手術、放射線、抗がん剤に続く「第4のがん療法」であることを世界に認知させたのです。
オプジーボの適応拡大。注意したい副作用
オプジーボは、悪性黒色腫に適応が認められてから、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん、根治切除不能または転移性の腎細胞がん、再発または難治性の古典的ホジキンリンパ腫、再発または遠隔転移を有する頭頸部がん、がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の胃がん、がん化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫 と効能効果が追加されています(2019年2月現在)。
また、オプジーボの効果をさらに高めると期待される併用療法についても検討され、根治切除不能な悪性黒色腫と化学療法未治療の根治切除不能又は転移性の腎細胞がん症例に対して、オプジーボと同じく免疫チェックポイント阻害剤のヤーボイの併用療法での使用が承認されています。
めざましい治療効果をあげているオプジーボですが、副作用があることも忘れてはなりません。オプジーボは、免疫による攻撃のブレーキを外す薬であるため、通常は抑制されている正常な自己に対する攻撃を引き起こしてしてしまう可能性があります。その結果、自己免疫反応が発生することは当初から予想されていました。免疫細胞が暴走して正常細胞を攻撃し、重大な副作用を招く恐れもあるのです。予想される副作用として、頻度は高くなくとも重篤な疾患に、間質性肺疾患、重症筋無力症、1型糖尿病、肝機能障害、大腸炎、神経障害等が挙げられています。また、頻度が高いものに、下痢・悪心、疲労・無力症、食欲減退、関節痛などが懸念されます。また、現状では、どのような病状・体質の患者がどのような副作用を起こすかは、明確になっていません。
まとめ
PD-1を標的とした薬剤は、オプジーボ以外にも続々登場、また、PD-1以外にも10種以上の物質が免疫チェックポイントの分子として有効なのか、どんな組み合わせに効果が期待できるかなどの研究が進展中です。免疫チェックポイント阻害剤は万能のがん治療薬ではありませんが、確実に進化を続けています。がんの症状、体質などを考慮し、自分にとって効果が見込めるかどうか医師に相談してみましょう。