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身体にメスをいれる手術はしたくない…..手術を避けた場合のリスクはどれほど高まるのか

インターネットや書籍のなかには、「切らずに治す」という治療法がたびたび紹介されています。手術が怖くない人はいませんし、自身の身体に手術跡が残ることを考えると、切らずにがん治療ができるのであれば、試してみたいと考えるのは自然なことだと思います。しかし、医師が勧める手術を拒否して、他の治療方法を選択することには、リスクが伴います。正しい知識を持ったうえで、後悔の無い治療方法の選択を行いましょう。

目次

医師はガイドラインに沿い、医学的根拠に基づいて手術を勧めている

手術を拒否した場合の死亡リスクはおよそ2.8倍に

高齢患者の場合は手術で死亡リスクが高まることも

まとめ

医師はガイドラインに沿い、医学的根拠に基づいて手術を勧めている

がん治療には、専門家によって作成されたガイドラインがあり、医師はこのガイドラインに沿って「手術」「抗がん剤」「放射線」といった標準治療による治療方法を提案します。現時点で最も勧められる方法であり、治療効果が期待できる方法です。もし、主治医に手術を勧められた場合、患者さんの状態を把握したうえで最も効果的な方法だと医学的根拠に基づいて判断されたことになります。

ほとんどの患者さんは医師の判断に従って手術を受けることでしょう。ただ、必ず医師の判断に従わなければいけないわけではありません。手術を拒否してほかの治療方法を選択する自由は、患者さんにあります。さまざまな理由で、手術以外の治療方法を模索している患者さんの相談は多く見受けられます。

例えば、乳がんと診断された女性です。女性のシンボルともいえる乳房を失うことに抵抗があり、美容的および精神的負担から手術を拒否する方が多いようです。また、タレントのつんく♂さんが受けた喉頭がんの手術では声を失うという機能喪失を伴う可能性から、手術を避ける方もいます。

ほかにも、最新技術による治療を受けたいといった希望で、標準療法を拒否される方がいます。第4の治療といわれる免疫療法もその一つです。なかには標準療法を受けずに免疫療法だけに取り組む患者さんもいます。日進月歩のがん治療の現場では日々新しい治療方法が出てきていますので、希望を持ってチャレンジしたいという気持ちは理解できます。アップルの創業者スティーブ・ジョブズや、2017年に乳がんで亡くなった小林麻央さんも、標準療法を拒否して民間療法による治療を進めていた例です。

ただし、前述したように医師が勧める治療方法は、ガイドラインに基づいた最も治療効果が期待できる選択です。標準療法を受けることができる患者さんには、標準療法をまず第一にしっかりと受けることをお勧めしています。

手術を拒否した場合の死亡リスクはおよそ2.8倍に

では切らないという選択を取った場合、どれだけのリスクがあるのでしょうか。2014年にアメリカ国立がん研究所に登録されたデータを元に、手術を拒否した人の生存期間を比較した調査結果があります。(Int J Radiat Oncol Biol Phys 2014;89:756-64)

1995年から2008年までにがんと診断された92万5127人の患者を対象としたデータのなかで、手術を拒否した患者が2441人いました。この手術を拒否した患者はそれ以外の患者に比べて、がんによる死亡リスクがおよそ2.8倍高いという結果が出ました。

手術を勧められたにも関わらず拒否した場合には、生存期間が短くなってしまうということは、エビデンスをもって証明されているということになります。

手術を拒否する患者さんが比較的多いといわれているがんの種類には「乳がん」と「喉頭がん」があります。患者さんが拒否する理由については前述の通りです。アメリカ国立がん研究所の同じ調査結果によると、乳がん患者53万1700人のうち、3389人が手術を拒否しており、手術を受けた患者に比べて死亡リスクが2.42倍高まるという結果が出ています。喉頭がんでは、2877人のうち138人が手術を拒否し、死亡リスクが1.6倍高まり、5年生存率は10%も低くなるという結果が出ました。

高齢患者の場合は手術で死亡リスクが高まることも

がんの種類とステージによっては、手術を受けられないという人もいます。手術は身体に負担を与えるため、耐えうる体力が十分にないと逆に合併症や後遺症のリスクが高まるからです。がん治療において手術を拒否した場合に死亡リスクが高まるとお伝えしましたが、それはすべてのがんの種類およびすべてのステージの患者さんを対象としたデータです。

例えば高齢者の肺がんにおいては、手術による治療と放射線治療の治療成果がほぼ同じという報告もあります。(JAMA Surg 2014;149:1244-1253)

持病のある高齢の患者さんは、手術による合併症などによる死亡リスクが高まるため、あえて手術を避ける選択を医師側が下すこともあるのです。患者さんの病状は一人ひとり異なるため、何がベストな選択かは主治医とよく相談して決めるようにしましょう。

まとめ

がん治療では、治療効果のみを重視することが正しいわけではありません。患者さんの生活の質(QOL)を維持することや、自分の気持ちを重んじる決断も尊重されるべきだと思います。がん治療の選択肢が増えてきている昨今において、手術をしないという選択もできます。ただ、医師に勧められた手術を避けた場合、死亡リスクが確実に高まることは認識しておきましょう。医学的根拠に基づいた標準療法を否定することなく、一人ひとりの患者さんにとって納得できる選択ができることを願っています。

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