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骨転移|生活の質の向上が治療目標に

がんの原発巣(がんが最初に発生した場所)から、がん細胞が血管やリンパ管に入り、血液やリンパ液の流れに乗って別の臓器や器官に移動し、そこで増えることを転移といいます。
転移した部位によって肺転移、脳転移などと呼び方が変わります。ここでは骨転移について解説します。

医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長 甲陽平

目次

骨転移とは

骨転移の検査は?

骨転移の治療は?

骨転移とは

原発巣から転移したがん病変は、転移した部位によって、肺転移、肝転移、脳転移などと呼ばれます。骨転移は名前の通り、骨に転移した病変を指します。

がんの種類により、比較的早期のうちから骨転移を起こしやすいがんと、進行してから起きるがんがあります。

前者の代表例は、乳がん、肺がん、前立腺がん、多発性骨髄腫などが挙げられます。骨転移が発生する頻度はおよそ2~3割とみられており、骨転移がきっかけで、原発巣のがんが見つかったり、がんが見つかったときにはすでに骨転移を生じていたりすることが少なくありません。

一方、病状が重くなってから骨転移が見られるがんの例としては、食道がん、胃がん、大腸がん、直腸がんなどの消化器系のがんや、子宮頚がん、卵巣がんなどの婦人科系のがん、咽頭がん、喉頭がんなどの頭頚部がん、皮膚がんなどがあります。骨転移の頻度は数%と低く、肺や肝臓など内臓への転移が見られるようになってから骨転移が起こる傾向があります。

なお、腎がんと肝がんはこれらの中間で、頻度は1割程度とされているものの、医療の進歩により治療成績が上がるにつれ、骨転移とともに暮らすケースが増えてきています。

骨転移のおもな症状は、痛み・骨折・麻痺の3つです。

痛みには個人差がありますが、最初は違和感程度で強い力がかかったときだけだったのが、時間の経過とともにちょっと動いただけでも痛みが出る、というように、徐々に強まるのが特徴です。

骨折は、痛みを我慢しているうちに些細な動作で起こってしまうケースが多く見られます。

麻痺は、背骨にがんが転移し、脊髄を損傷することが原因で生じます。一度損傷を受けると、回復はまず期待できません。多くの場合寝たきりとなり、排泄のコントロール機能も失う場合があります。

骨転移の検査は?

痛みなどの症状があり、骨転移が疑われる場合は、X線やCT、MRIといった画像検査で転移の場所や程度などを調べます。

X線は重症度を大まかに把握するための基本的な検査となっています。この検査で骨折や麻痺などの重篤な症状を起こす恐れがあると判断された場合、MRI検査でさらに詳しくそのリスクを調べます。MRIでは脊髄などの神経組織も映しだされ、圧迫骨折やX線では発見できないような小さな骨転移もわかることがあります。

CTは骨がどの程度破壊されているかなど、さらに詳細な様子が観察できます。それによって骨折リスクがより厳密にわかり、どの程度体を動かしてもよい状態か、コルセットが必要かなどを検討することができます。

また、骨シンチグラフィーといって、骨の材料に類似した放射性物質を注射して骨の代謝の状態を調べる検査も、転移の広がりやCTではわかりにくい部位の状態を把握するために検討される場合があります。

一方、自覚症状がない場合、骨転移が起こっているかいないかは腫瘍マーカーがひとつの目安になることがあります。肺がんや乳がん、前立腺がんなど骨転移の頻度の高いがんでは、腫瘍マーカーの数値上昇が、骨転移発見のきっかけになることもあります。 また、内臓への転移を調べるCT検査で、骨転移が見つかる場合もあります。

骨転移の治療は?

転移したがん病変は、原発巣のがんと同じ性質を持つため、検査や治療は原発巣のがんに準じて進められます。

骨転移が生じると、分類上は進行期になり、がんの完治は難しいといえます。ただし骨転移そのものは命に関わる状態ではなく、治療目標は生活の質の向上に置かれます。

骨転移の治療法には、薬物治療、放射線治療、手術があります。

薬物治療は、骨転移があっても骨折はしておらず、当面体への影響はないと判断される場合に検討されます。基本的には抗がん剤や分子標的薬、ホルモン剤(乳がんや前立腺がんなど)でがん細胞の増殖を抑える治療が行われます。これらに、破骨細胞という骨を破壊する細胞の働きを抑えるゾレドロン酸といった薬や、痛みを抑えるオピオイド、消炎鎮痛薬等が併用される場合もあります。

放射線治療は、とくに痛みがある場合の緩和に有効とされています。もっとも一般的なのは外照射といって、病変部の外から放射線を照射する方法ですが、ほかに、病変部に放射線が集中するように照射する定位照射や、Ra223(ラジウム223)という骨に集まりやすくα線を放出する放射性物質を注射するといった方法もあります。

放射線治療には、耐容線量といい、正常組織に障害を起こさないための上限が設けられています。基本的に、放射線治療は病変部位1ヵ所につき一般的に10~20回の照射を2~4週間かけて行っています。

手術については、おもにがんの転移による骨折(病的骨折)と脊髄圧迫に対する手術が行われます。がんの治療として、骨に転移した病巣を切除するために手術を行うことは多くありません。ただし、病巣が限局しており、手術で取りきれる範囲であるなど、限られた条件を満たす場合は検討されることもあります。

まとめ

骨転移の治療は基本的に、原発巣のがんに準じて行われます。治療法には薬物療法、放射線治療、手術がありますが、手術はがん治療というよりは、骨折や麻痺に対する治療として検討されます。放射線治療は痛みの緩和に有効ですが、耐容線量が設けられているため、行える回数には上限があります。

【甲 陽平(かぶと・ようへい)】
医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長
1997年、京都府立医科大学医学部卒業。2010年、池袋がんクリニック(現 池袋クリニック)開院。
「あきらめないがん治療」をテーマに、種々の免疫細胞療法を主軸とし、その他の最先端のがん治療も取り入れた複合免疫治療を行う。
池袋クリニック、新大阪クリニックの2院において、標準治療では治療が難しい患者に対して、高活性化NK細胞療法を中心にした治療を行い、その実績は5,000例を超える。

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