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成人T細胞白血病/リンパ腫|T細胞が冒され全身に異常が発生

成人T細胞白血病/リンパ腫は、HTLV-1というウイルスの感染者に発生するがんです。血液中やリンパ節に存在する免疫細胞のひとつ、T細胞が冒されるため、症状は全身の様々な臓器や組織に及びます。原因不明の発熱や皮膚の異常、消化器の異常、倦怠感などが多く見られます。

医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長 甲陽平

目次

成人T細胞白血病/リンパ腫とはどんな病気か

成人T細胞白血病/リンパ腫の検査、診断、生存率は?

  • 病態のタイプ(病型分類)

成人T細胞白血病/リンパ腫の治療は?

  • 悪性度が高い病型:急性型・リンパ腫型・予後不良因子をもつ慢性型
  • 悪性度が低い病型:予後不良因子のない慢性型・くすぶり型

成人T細胞白血病/リンパ腫とはどんな病気か

成人T細胞白血病/リンパ腫は白血病・リンパ腫の一種で、英訳のAdult T-cell Leukemiaの頭文字をとりATLと呼ばれています。

原因は、HTLV-1(human T-lymphotropic virus type-Ⅰ)というウイルスによる、白血球中の免疫細胞のひとつT細胞への感染であることがわかっています。T細胞がこのウイルスに感染すると、ATL細胞と呼ばれるがん化した細胞が増殖し続けます。これによりATLが発症します。

感染経路としては、母子感染(おもに母乳)、性交渉による感染(おもに男性から女性)および輸血による感染がありますが、国内では1987年に、輸血用血液が感染されていないか検査されるようになったため、輸血による感染はなくなっています。

これ以外の日常生活でうつることはなく、また、感染した人がすべて発症するわけではありません。感染者(キャリア)に5~10%の頻度で発症するとされています。

年間の発症者数は約700人といわれています。加齢とともに増加し、60代が発症のピークとなっています。

免疫細胞であるT細胞は血液中だけでなくリンパ節にも存在するため、ATL細胞はリンパ節でも増殖します。それにより多くの場合、リンパ節の腫れが症状としてあらわれます。その他、肝臓や脾臓が腫れることもあります。

全身の免疫機能が低下するため、原因不明の発熱や皮膚の紅斑、皮下のしこり、下痢や腹痛などの消化器症状、倦怠感などが多く見られます。また、日和見感染症といって、健康な人はまず感染しないさまざまな菌やウイルスに感染しやすくなります。一例としては真菌感染によるカンジダ症、サイトメガロウイルス肺炎や汎発性帯状疱疹などのウイルス感染症、寄生虫感染症があります。

成人T細胞白血病/リンパ腫の検査、診断、生存率は?

ATLが疑われる場合、血液検査でウイルス感染の有無や、異常細胞を調べたり、骨髄検査で、骨髄液に含まれる細胞を調べたりして診断します。皮膚に病変が起こっている場合は皮膚生検をすることもあります。

また、病態のタイプを知るために病理検査や、染色体・遺伝子検査が行われ、それによって治療方針がたてられます。

病気の広がりを調べるための検査としては、CTやMRIなどの画像検査や、脳への広がりがないかを調べる髄液検査などがあります。

病態のタイプ(病型分類)

急性型
血液中のATL細胞が急速に増殖している状態で、早急な治療が必要。最も多い病型。
リンパ腫型
ATL細胞が血液中ではなくリンパ節で急速に増殖している状態で、やはり早急な治療が必要。急性型に次いで2番目に多い病型。
慢性型
血液中のリンパ球の数が増加しているものの、ATL細胞は多くはなく、進行速度が遅い。
くすぶり型
ATL細胞はあるものの(白血球数の5%以上)、血液中の白血球数は正常。進行速度は遅い。

なお、慢性型はさらに、血液検査等の結果により、「予後不良因子あり」と「予後不良因子なし」に分けられます。

ATLは予後の思わしくないがんのひとつで、診断時には悪性度が低くても、その後急に悪性度が高くなることがあり、低悪性度のATLと診断されてから、5年後に生存されている患者さんは約半数と報告されています。

成人T細胞白血病/リンパ腫の治療は?

治療方針は、悪性度が高い病型と低い病型で異なります。

悪性度が高い病型:急性型・リンパ腫型・予後不良因子をもつ慢性型

このタイプは病状が急速に進行するため、速やかに強力な化学療法を行います。また、検査でALT細胞の増殖に関わる分子(CCR4抗原)があることがわかれば、分子標的薬による治療も検討されます。

薬物療法の治療効果が得られた場合はさらに、全身状態やドナーの条件が揃えば、予後の改善を目的とした同種造血幹細胞移植が検討されます。

悪性度が低い病型:予後不良因子のない慢性型・くすぶり型

一般的に低悪性度ATLは、通常の抗がん剤による治療では、予後の改善は見込めないと考えられており、定期的に経過を観察する無治療経過観察が行われます。その上で悪性度が高くなったら、上記「悪性度が高い病型」の治療へ移行します。

ただし、皮膚症状がある場合は、その緩和のためにPUVA療法と呼ばれる紫外線を照射する治療や放射線治療、副腎皮質ステロイド剤の外用といった治療が行われます。それらの効果が不十分の場合は、抗がん剤治療が検討されます。皮膚に対する治療効果が不十分の場合は、細胞障害性抗がん剤単剤での化学療法が検討されます。

なお、国内の2施設で、低悪性度ATLに対する化学療法(インターフェロンα/ジドブジン併用療法)の臨床試験が進行しています(2019年10月の情報に基づく)。

まとめ

成人T細胞白血病/リンパ腫は悪性度によって治療方針が異なります。低悪性度で皮膚症状がない場合は経過観察が基本ですが、海外では化学療法が試みられており、国内でも臨床試験が進行しています。将来的に予後改善につながる治療法の確立が期待されます。

【甲 陽平(かぶと・ようへい)】
医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長
1997年、京都府立医科大学医学部卒業。2010年、池袋がんクリニック(現 池袋クリニック)開院。
「あきらめないがん治療」をテーマに、種々の免疫細胞療法を主軸とし、その他の最先端のがん治療も取り入れた複合免疫治療を行う。
池袋クリニック、新大阪クリニックの2院において、標準治療では治療が難しい患者に対して、高活性化NK細胞療法を中心にした治療を行い、その実績は5,000例を超える。

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