だるい、疲れる……つらいがん治療の副作用をやわらげる「リラックス」の効果
抗がん剤のなかでも殺細胞性と呼ばれるタイプの薬は、がん細胞を殺傷する作用がある一方、場合によっては正常な細胞まで攻撃の対象にしてしまうため、強い副作用が問題になります。その副作用を軽減するキーワードの1つが「リラックス」です。本記事では、リラックスの効果とそのメカニズムについて解説します。
医療法人輝鳳会 理事長 池袋クリニック 院長
目次
免疫が有効な理由は「体の抵抗力がつく」からだけではない
免疫細胞とリラックス効果との関係
リラックスすると「不快さ」「痛み」を感じにくくなる!?
免疫が有効な理由は「体の抵抗力がつく」からだけではない
抗がん剤のなかでも殺細胞性と呼ばれるタイプの薬は、強い副作用が問題になります。このタイプの薬は、がん細胞が正常な細胞よりも分裂が速いという特性を利用し、分裂の速い細胞を殺傷する設計になっているのですが、実は正常な細胞のなかにも、消化管の粘膜や毛母細胞など分裂が速いものがあり、それらも薬剤の影響を受けてしまうために、吐き気や脱毛といった副作用が起こるのです。
近年は薬の開発が進み、副作用を上手にコントロールする薬も増えてきたため、副作用が軽く済み、比較的楽に抗がん剤治療を受けられる人も増えてきているようです。しかし高齢の方や体力がない方などは、副作用がつらいという理由で治療を中断せざるを得ないケースが今でも見られます。
一方、患者さんの血液から免疫細胞を取り出して培養する免疫療法では、「敵」とみなしたがん細胞だけを攻撃するので、副作用はほとんどありません。そのうえ、同時期に抗がん剤治療を受けている患者さんからは「免疫療法を受けたら、抗がん剤の副作用が軽くなった」という声も多く聞かれます。
免疫療法を受けると、なぜ抗がん剤の副作用が軽く感じられるのでしょうか。これについては、実は科学的には明らかになっていません。よく言われるのは、免疫療法で体の免疫力(抵抗力)がつくため、抗がん剤のダメージが抑えられるという話ですが、筆者個人としては、それだけが理由ではないように感じています。
免疫細胞とストレスとの関係
気分がいいと顔色も良く、表情も生き生きして活動的になれる、反対に気分が落ちこんでいると顔つきもどんよりして体が重い、といったことがよくあるように、心と体の状態はリンクしていることを誰でも経験的に分かっていると思います。
これは、生体の活動や休息をコントロールしている自律神経と免疫が相互に作用し合っていることが要因の1つではないかと考えられます。
実は自律神経については、リラックスをつかさどる副交感神経が優位に立つと免疫細胞のなかでもリンパ球が増え、逆に興奮や緊張をつかさどる交感神経が優位に立つと血球が増えると言われています。
この関係については、私自身にも思い当たるところがあります。ストレスで交感神経が優位に立つと顆粒球の中の好中球の働きが活発になります。ちなみに好中球が主にターゲットにしている敵は、外部から侵入してくる細菌などです。
私の場合は、虫歯の治療中に、強烈なストレスを受ける出来事に遭遇し、その後その虫歯が突如化膿し、その腫れによるつらい経験をしたことがあります。ストレス過剰ということは交感神経が優位になっているということですから、好中球の働きが活発になっていたと推察されます。好中球が活発に働くと炎症反応も活発になり、それに伴って痛みや腫れの症状が強く出てしまい、化膿したと考えられます。
国内外の研究にも、自律神経と免疫との関係に言及した報告があります。 米国では1980年代より医療における笑いの効用が注目され、大笑いによりリラックスすると自律神経のバランスが整うことや、エンドルフィンという強力な鎮痛作用を持つ神経伝達物質が増加し、痛みを忘れてしまうことなどが確認されています。
また国内でも、漫才やコメディの舞台を観て大笑いしたら、NK細胞の活性(がん細胞を殺す能力)が上昇したという報告があり、好きなことに取り組む、楽しいことに没頭することが免疫力を上げることにつながると考えられています。
リラックスすると「不快さ」「痛み」を感じにくくなる!?
前項でも触れたように、自律神経は「痛み」の感覚にも関係していることが知られています。リラックスしているとき、良い気分のときには痛みを感じにくく、逆にイライラしていたりクヨクヨしていたりと気持ちが落ち込んでいるときには、痛みに対する感覚が敏感になるのです。
身近な例でいえば、腰痛や肩こり、関節痛などが分かりやすいのではないでしょうか。先に挙げた筆者のような歯痛もその1つといえます。何か楽しいことをしていれば痛みがあることを忘れてしまうのに、悩み事があったり、あるいは仕事が溜まって憂うつだったりというときには、痛みがいつもより強いと感じられたことがある人もいるでしょう。
副交感神経が優位に立っていてリラックスしている状態のときも、痛みや不快な感覚は薄らぐものです。免疫療法でリンパ球が体内に増えている状態は、もしかしたら心もリラックスする状況になりやすく、そのために副作用によるつらい感覚がやわらいでいるのかもしれません。
ぬるめのお風呂に入ったり、照明を暗くして好きな音楽を聴いたりするなど、自分が心地良くゆったりした気分で過ごせるのであれば、リラックスの仕方は何でも構いません。最も簡単な方法は「深呼吸」です。ゆっくりと静かに息を吐き切り、鼻からゆっくりとお腹を膨らませていくようなつもりで深く息を吸っていきます。何度か繰り返すだけで気分が落ち着き、不快な症状がやわらいでいくことを感じるかもしれません。
まとめ
リラックスをつかさどる副交感神経が優位に立つと、免疫細胞の活性化が促されるとともに、つらさ、不快な感覚がやわらぐ効果が期待されます。最も簡単な方法は深呼吸。静かにゆっくり行うのがポイントです。
【甲 陽平(かぶと・ようへい)】 医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長 1997年、京都府立医科大学医学部卒業。2010年、池袋がんクリニック(現 池袋クリニック)開院。 「あきらめないがん治療」をテーマに、種々の免疫細胞療法を主軸とし、その他の最先端のがん治療も取り入れた複合免疫治療を行う。 池袋クリニック、新大阪クリニックの2院において、標準治療では治療が難しい患者に対して、高活性化NK細胞療法を中心にした治療を行い、その実績は5,000例を超える。 |