三大療法が効かなくなってしまうと、病院から見離されてしまう[1−3]
こちらのコラムは書籍 『高活性化NK細胞で狙い撃つ 究極のがん治療』より、一部抜粋してご紹介いたします。
本書は免疫細胞療法の中で、がんへの高い攻撃力を期待されている「高活性化NK細胞療法」と複合免疫療法を中心に、これからのがん治療とその効果について紹介しています。
目次
三大療法が効かなくなってしまうと、病院から見離されてしまう
高齢化を背景に、増え続ける「がん難民」
進行がんには、抗がん剤しかない現状
「生活の質」がないがしろに
三大療法が効かなくなってしまうと、病院から見離されてしまう
本章の冒頭で触れた通り、三大療法のうち手術と放射線治療は基本的に局所治療、つまりがんが限定された範囲にとどまっている場合のみに有効な治療法です。がんが進行して再発や転移をしてしまうと、がん細胞は体の広範囲に及んでいるため、全身治療である抗がん剤が頼みの綱です。しかし現状、その抗がん剤もがんを治癒には導けません。
手術も放射線治療も効かない上、抗がん剤も耐性ができて効かなくなってしまうと、保険適用内で行える治療法はなくなります。よって、もう「手立てがない」ということになってしまうのです。
体も十分に動き、まだまだがんと闘えると気力の面でも充実している人にとって「手立てがない」と言われることほどつらいことはありません。がんだけでなく、三大療法によるつらい副作用とも闘い、心にも体にも相当の負担を強いてきたのに、突然はしごを外され、途方に暮れることが、進行がんの治療では多々起こります。
もう保険適用内では受けられる治療がないわけですから、病院としても入院させておくわけにもいかず、家に帰ってくださいということになり、通院も経過観察のみ、ということになってしまいます。こうして患者さんはいわゆるがん難民になってしまうのです。
患者さんご本人はまだまだ「何かしらの治療を受けたい」と思っても、かかっていた病院からはまず情報などもらえません。しかたなく口コミなどを頼って、がんのさまざまな民間療法を手当たり次第に頼る人も出てきます。
たとえがんが治癒しなくても、できるだけ長くイキイキと自分らしく生きたいというのは、人間としてごく自然な思いではないでしょうか。それにも関わらず、そのために何かしたいと思っても、選択肢がない―こうした現状は患者さんの「生きる気力」にも影を落としかねないと危惧しています。
高齢化を背景に、増え続ける「がん難民」
「がん難民」という言葉がマスコミで取り上げられるようになってから、もう何年経つでしょうか。すっかり一般に定着しているようにも感じられます。
少し古い資料になりますが、2005年に行われたがん患者さんへのアンケート調査によると、がん難民の推計は患者数全体の5割以上にのぼるという結果が出ています。この調査では「治療説明時もしくは治療方針決定時のいずれかの場面において、不満や不納得を感じたがん患者さん」を広義に「がん難民」と位置付けています。三大療法を尽くして手立てがないと宣告されてしまい、行き場がなくなってしまった患者さんのほか、自分に合った治療を受けたいが適切な情報がなかったり、病院での治療方針に納得がいかなかったりして前へ進めない患者さんや、過去の治療を後悔している患者さんも含まれています。そのため、少し多めに出ている印象がありますが、いずれにしても半数以上の人が、今の日本のがん治療に手詰まり感を持ったことがあるといえます。
同じ調査で「総合的に見て日本のがん医療の水準に満足していますか」という問いに対し、がん難民の患者さんの9割以上が「不満」と回答したことからも、受けたい治療を受けられない現状が浮き彫りになっていると思われます。
ちなみにがん難民の患者さんが具体的に持っている不満内容の上位に「行政による治療薬承認(海外では使われている治療薬が国内では未承認で使えないなど)」「病院や医師の質についての情報開示」「心のケア」が挙がっています。日本は超高齢化を背景に、がん患者数が年々増加を続けています。国立がんセンターの推計によると2000年には約53万人だった罹患者は、2010年には約81万人にまで増えています。
がん患者の5割以上ががん難民、という先の調査でわかった割合をかけると2010年は実に40万人強ががん難民、という試算が成り立ちます。
このような調子で今後も患者数が増えるほどに、がん難民も増加の一途をたどることが予想されます。
高齢者のがん患者さんにおいては、持病や体力的な問題で三大療法を受けられなかったり、若い人よりも副作用が強く出やすいため、治療が続けられなかったりといったケースが少なくありません。外見は健康な人と同じように元気であるにも関わらず「もう打つ手がありません」と突き放されてしまう人が後を絶たないのです。
進行がんには、抗がん剤しかない現状
がんが浸潤や転移を起こしてしまった患者さんにとって、現在の保険治療内での選択肢は「抗がん剤しかない」と考えられます。日々がんに対する研究は進められており、新薬の開発や臨床試験のニュースも次々と出ていますが、実際の医療に使われるようになるまでには長い年月がかかります。一般論ですが、医薬品の開発には10〜20年を要するといわれています。
例えば、新聞に「マウスによる実験でがんに対する新たな治療法が発見された」というような記事が載ったとします。しかし、それが実現し薬となって患者さんが恩恵を受けられるようになるのは四半世紀も経ってからということがほとんどなのです。
また海外では長い間使われていて治療実績もある薬が、日本ではなかなか承認されず使うことができない「ドラッグラグ」という問題もあります。
薬の承認には臨床試験によって安全性や有効性が証明される必要があります。しかし日本では、専門家の不足等さまざまな背景から、その着手も承認審査も遅れがちという現状があります。またご存知の通り、臨床試験は開始してから何年もの間、経緯を見ていく必要があるものが多く、承認までにたいへん時間がかかります。
他のがんや病気で使われている薬の適応拡大でも、数年かかるケースが少なくありません。
ある疾患には承認されていても、他の疾患には承認されていない薬を使うことを適応外使用(適応外処方)といいますが、原則として自由診療扱いとなり、保険診療との併用はできません。海外ではこれを保険診療で実施しやすい仕組みや制度を有しているところもあり、日本でもこの構築が課題になっています。
「生活の質」がないがしろに
さらに現在の三大療法に認められている「治療効果」の中には「QOL(Quality of Life: 生活の質)」という観点が入っていないことも、患者さんが安心して治療を受けできるだけ快適「生活の質」がないがしろにに過ごすことの妨げになっています。
抗がん剤でがんが小さくなったとしても、副作用が強いために思うように動けなかったり、食事がとれなかったりしたら果たしてそれは患者さんのためになっているのでしょうか。
患者さんの病状にもよりますが、今は抗がん剤治療でも通院で行えるものが増えてきました。仕事をしながらその合間を縫って病院へ行き、治療を受けている方もいらっしゃいます。
通院を除けば健康な人とまったく同じように活動的とはいかないまでも、職場や自宅で日常生活を送っている、そんな治療のあり方が珍しくない時代になっています。
そういう時代になったからこそ、なおさら患者さんのQOLにはもっと目を向けられるべきだと思うのです。がんを縮小させたりなくしたりすることはもちろん、治療の目的に変わりはありません。しかしそれで命を永らえること〝だけ〞が、その人にとっての幸せとは言い切れないでしょう。
どれだけQOLが高いか―苦痛や不便が少なく、やりたいことができ、充実した人生を送れるかが重要であり、そのためにもがん治療は、心身への負担ができるだけ少ないことが望ましいと思います。
QOLを高める、と口にするのは簡単ですが、それをがん治療で効果の尺度にするのは、現実問題として難しいものです。例えば、副作用が少ないであるとか、治療後の生活が制限されないといったことが挙げられるでしょうか。
そのほかにも、生きがいを持って生活できるとか、社会との関わりを持った活動ができるとか、QOLに含まれ得る要素は実に多岐にわたりすべてを盛り込むとなるとたいへんです。
患者さんの方も病状が違えばその人が何をもって「QOLが高い」と感じるかは変わってきます。治療後の生活が制限されないといっても、早期がんなら日常生活が不自由なく行えることがイメージされる一方、進行がんで寝たきりに近い状態の患者さんでは、まず上半身を起こすことが目標となるといったように、一人ひとり違ってきます。
その点がんの大きさや、どれだけ命を永らえるかは数値で表すのが容易なので評価がしやすいですし、定義を決めてしまえばどんな病状にも共通した尺度になります。しかし本来、患者さんが「治療で受けるメリット」とは、がんの大きさや生存期間だけではないはずです。「高いQOLが得られた」という観点も入ってくるべきではないでしょうか。
もしそのような観点で高い評価が得られる治療なら、患者さんはもっと安心して受けられると思います。たとえ治癒は見込めなくても、うまくがんと付き合いながらできるだけ長く、満足のいく人生を送れる、そんな患者さんも増えると思います。
そうすれば、治療に「不満、不納得」を持つがん難民も減るのではないでしょうか。しかし今の三大療法では、QOLまで追求した治療法の確立までには至っていないと言わざるを得ません。