がん家系の方が知っておくべき「がんと遺伝の関係」
自分の家族にがん患者が多いことで、「もしかしたら自分にも遺伝するのでは?」と疑問に思った方もいるのではないでしょうか。近年ではがんの「遺伝子検査」が一般的になってきているなど、がんと遺伝の関係について認知されるようになってきました。ここでは、遺伝性のがんについてご説明します。
目次
両親から受け継いだ、がん抑制遺伝子による影響
代表的な遺伝性腫瘍「リンチ症候群」「乳がん・卵巣がん」
生涯変わらない遺伝子検査の結果。家族のためにも受ける価値はある
両親から受け継いだ、がん抑制遺伝子による影響
日本人にとってがんは最も身近な病気です。日本人の2人に1人はがんになるといわれ、親戚にがん患者がいる方は少なくありません。 特に、家系の中で「特定のがんが多く発生している」「若くしてがんを罹患した人がいる」といった場合には、もしかするとそれは “遺伝”による影響が疑われます。
親から子に伝わった遺伝子によって、がんが罹患しやすくなることを「遺伝性腫瘍症候群」と呼びます。
本来、遺伝子にはがんを抑制する役割のものがあり、父親由来と母親由来のものが2個ずつ入っていますが、このうち1個が最初から変異した状態で受け継がれると、もう1個の抑制遺伝子に頼らざるを得ず、そして、1個も機能しなくなると、がんが発生してしまう可能性が高くなります。このような方は、通常2個持っている抑制の機能が生まれつき1個しかないわけですから、一般の人に比べてがんになりやすいのです。
代表的な遺伝性腫瘍「リンチ症候群」「乳がん・卵巣がん」
遺伝性腫瘍は「大腸がん」「乳がん・卵巣がん」「骨軟部肉腫」「皮膚がん」「脳腫瘍」などで見られます。
特に大腸がんと乳がん・卵巣がんが代表的です。
大腸がんの遺伝性は、全体の5%程度とされています。遺伝性の大腸がんで最も多いのが、「リンチ症候群」と呼ばれるものです。大腸がんの平均発症は65歳前後ですが、リンチ症候群による大腸がんは平均45歳前後で発症し、若くして発症する特徴があります。リンチ症候群が疑われた場合には、まず1990年に国際的な研究グループであるICG-HNPCCが発表した評価基準「アムステルダム基準Ⅱ」に照らし合わせて判断します。この評価基準に当てはまる方を対象に「MSI検査」「免疫組織学的検査」「遺伝子検査」などを実施し、リンチ症候群の確定診断となります。
他にも、遺伝性の大腸がんには、大腸に100個以上のポリープができる「家族性大腸ポリポーシス」があります。こちらは多量のポリープが発生するため、リンチ症候群に比べると早期発見がしやすい遺伝性腫瘍です。APCという遺伝子を調べることで確定診断が行われます。
また、乳がんと卵巣がんも遺伝が原因である可能性が高いことで知られています。原因遺伝子としてBRCA1、BRCA2の2種類の遺伝子を持つ人が発症しやすく、母親由来で遺伝する可能性があります。家系内に乳がん・卵巣がんを発症した人が複数いる場合や、40歳未満と若い時期に発症した人がいる場合には疑う必要があるでしょう。
生涯変わらない遺伝子検査の結果。家族のためにも受ける価値はある
遺伝子検査は血液を採取し、白血球細胞からDNAを抽出して行います。DNAは塩基という物質の並び方が人それぞれ違うのですが、この並び方に病気と関係する変化がないか調べます。調査はとても大変な作業で、BRCA1の場合には約6,000個の塩基配列を、APC遺伝子の場合には約9,000個の塩基配列を確認しなければなりません。しかし、この検査体制が近年、全国的に実施施設が増えて整ってきたことで、比較的手軽に受けることができるようになってきました。
遺伝子検査の結果は、生涯変わることはありません。また、検査結果は本人のみではなく、親や兄弟、子どもにも高い確率で同じ変異が認められます。がんが発症する前に対策をとる機会が得られるため、早期に実施するメリットは大きいといえます。
まとめ
ただし、遺伝子検査の結果は、すべてを説明できるものではありません。罹患のしやすさを説明できるのは、乳がんや大腸がんなど一部のがんに限られています。また、がんの発症を100%予測できるものではなく、解釈の余地が存在しています。
さらに、家族への遺伝可能性も分かることで、却って心の負担になってしまうかもしれません。結果をどのように受け止め、どういった対策が考えられるかを適切にアドバイスするには、医療的にも心理社会的にも専門的なケアが必要であり、慎重に行われる検査でもあります。
そこで、がんになりやすい家系かもしれないと疑いを持ったら、医療機関での遺伝カウンセリングを行うことをおすすめします。カウンセリングによって「遺伝子検査を受けるべきか」「検査でどこまで分かるのか」「子どもや家族も検査を受けるべきか」など、あなたの状況を踏まえて丁寧に説明をしてくれます。
予防や治療のためはもちろん、長期的なライフプランを考えるうえでも、遺伝子を把握することは、がん罹患のリスク回避に役立つでしょう。