乳がん検診の方法と有効性|多様な検査方法が存在
がんは発見が早いほど予後がよく、完治に導けるがんも数多くあります。なかでも肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんの5つのがんは、検査で早期のうちに見つけやすく、かつ早期で治療すればがんで死ななくてすむ可能性がとても高いという2点を満たしており、国もがん死亡率減少を目的とした検診を推し進めています。ここでは乳がんについて、検診で用いられるおもな検査方法と有効性を解説します。
医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長 甲陽平
目次
乳がん検診は「マンモグラフィ」が基本
高密度乳房(デンスブレスト)は超音波との併用も
人間ドックなどで行われる乳がん検診
乳がん検診は「マンモグラフィ」が基本
乳がんは女性のがんの中で最も多く、年々増えています。2016年の統計では新たに乳がんと診断された人数は9万人を超え、11人に1人が生涯のうち乳がんにかかるといわれています。また、30歳~64歳の女性全体の部位別がん死亡数は1位、全年代でも5位となっています(2018年人口動態統計による全国がん死亡データより)。
現在,この乳がんによる死亡を減少させる効果が明らかな検査方法は、マンモグラフィと呼ばれる乳房X線検査だけです。日本では40歳以上の女性に対してマンモグラフィが推奨されています。
マンモグラフィでは、専用の撮影装置を使い乳房を検査用の板で挟み薄くして、斜め方向と上下方向を撮影します。がんなどの異常があると、画像にはしこりの影や白い粒として写ります。
白い粒は石灰化といって、がんなどにより細胞が死滅したあとにたまるカルシウムの成分です。しこりとは違い、乳房を触っても石灰化はわからないため、がんの早期発見に有効です。ただし、石灰化があると必ずがん、というわけではなく、精密検査で詳しく調べる必要があります。
自治体等での対策型検診では、多くのところでこのマンモグラフィと視触診がセットで行われます。
[図表]乳がん検診のながれ
高密度乳房(デンスブレスト)は超音波との併用も
乳房内には乳汁をつくったり乳頭へ運んだりする乳腺という組織が張り巡らされています。この乳腺は、マンモグラフィでは白く写ります。一方、石灰化やしこりといった病変の疑いがあるものも、マンモグラフィでは白く写ります。そのため、乳腺が密に張り巡らされている=乳腺密度の高い乳房では、マンモグラフィで病変が見つかりにくい場合があります。
この乳腺密度が高い乳房を、高密度乳房(デンスブレスト)といいます。
国内の臨床研究で、マンモグラフィを受けたグループと、マンモグラフィに超音波検査を加えたグループを無作為に分けて乳がんの発見率を比較したところ、超音波を併用する方が1.5倍、がんの発見率が高くなったという報告があります。このことから、マンモグラフィで病変が見つかりにくい高密度乳房の場合は、マンモグラフィのほかに超音波検査も受けると、がん発見の役に立つことがあります。
ただし、死亡率が減ることまで証明できていないため、国のがん対策には、超音波検査は対策型検診のメニューに入っていません。検診を受ける人が自発的に医療機関に申し出、オプションとして加えるにとどまっています。
現在、自治体によっては乳がん検診を受けた人に、高密度乳房であることをお知らせするところも増えてきています。
なお、乳腺はおおよそ更年期を境とし、加齢ととともに脂肪に置き換わっていきます。X線画像上でも黒く写るようになっていきます。
人間ドックなどで行われる乳がん検診
近年、PEM検査と呼ばれる乳房専用のPET検査機器が登場しています。原理はPET検査と同じで、がん細胞がブドウ糖をたくさん取り込むという特性を利用し、微量の放射性物質(18F-FDG)を体内に注射し検査することでがんが取り込んだブドウ糖が、コンピューターの画像上光る、というものです。PEMは乳房に特化して開発されており、1.5~2.5 mm程度のごく小さな病変も見つけることが可能です。初期の乳がんの発見を得意とする検査といっていいでしょう。
日本乳癌学会の乳癌診療ガイドラインでも「受診者が利益と不利益の十分な説明を受けて,それを理解したうえで任意型乳がん検診として選択することは否定されない」とされています(乳癌診療ガイドライン2018年版。追補2019)。
検査方法には、座ったままで乳房を片方ずつ検査用の板にはさむやり方と、うつぶせになりベッドにあいた穴に乳房を入れるやり方とがあります。板にはさむやり方は、マンモグラフィのような強い圧迫はないので、痛みはほとんどありません。
ただし放射性物質を使うため、妊婦は受けられないことと、日本ではまだ導入施設が少ないことなどがデメリットとして挙げられます。なお、国ががん対策として推奨する対策型検診ではないので、受けたい人が任意で自費にて受ける任意型検診となります。
同様に、乳がんの任意型検診には、乳房MRIもあります。こちらも原理は通常のMRIと同じで、強い磁石と電磁波を使って体内の状態を断面像として描写する検査方法です。乳房の奥にあるごく小さな病変を発見するのが得意とされています。ただし原則的に造影剤を用いるためアレルギーがあると受けられないことや、施設数が少ないことなどがデメリットとして挙げられます。
まとめ
自治体や職場で受けられる乳がんの検診方法にはマンモグラフィという乳房X線検査があります。高密度乳房(デンスブレスト)といって乳腺の密度が濃い乳房の場合は、超音波検査を併用するとがんの早期発見に役立つ可能性がありますが、今のところ任意で受ける検査となっています。
近年、PEM検査と呼ばれる乳房用のPET検査や、乳房MRIも登場してきており、小さな病変の発見にすぐれているとされていますが、国内での導入施設はまだ少ないのが現状です。
【甲 陽平(かぶと・ようへい)】 医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長 1997年、京都府立医科大学医学部卒業。2010年、池袋がんクリニック(現 池袋クリニック)開院。 「あきらめないがん治療」をテーマに、種々の免疫細胞療法を主軸とし、その他の最先端のがん治療も取り入れた複合免疫治療を行う。 池袋クリニック、新大阪クリニックの2院において、標準治療では治療が難しい患者に対して、高活性化NK細胞療法を中心にした治療を行い、その実績は5,000例を超える。 |