皮膚がん|良性だと思い込み受診が遅れるケースも、不自然さを感じたらすぐ専門医へ
皮膚がんは発生する場所等により、いくつかの種類に分けられます。体の中にできるがんと違い、早期の段階でも見つけることが可能ながんですが、ほくろや良性のできものと思いこみ、受診が遅くなるケースが少なくありません。形や大きさ、色、それらの急な変化に気をつけて、不自然に思ったら早めに皮膚科専門医を受診することが大切です。
医療法人輝鳳会 理事長 池袋クリニック 院長 甲陽平
目次
皮膚がんとはどんな病気か。原因、自覚症状は?
- 基底細胞がん
- 有棘細胞がん
- 悪性黒色腫(メラノーマ)
手術による切除が第一選択―皮膚がんのステージと治療
皮膚がんと免疫療法
皮膚がんとはどんな病気か。原因、自覚症状は?
皮膚は表面に近い方から表皮(上皮)、真皮、皮下組織の大きく3つに分けられます。表皮はさらに、上から、角質層、顆粒層、有棘層、基底層の4つの層から成っています。
皮膚がんは皮膚にできるがんの総称で、おもなものに基底細胞がん、有棘細胞がん、悪性黒色腫があり、できる場所をはじめ、それぞれ特徴があります。
基底細胞がん
名前の通り、表皮の最下層である基底層から発生するがんです。皮膚がんの中でも特に高齢者に多く見られます。顔面に好発することから、紫外線の関与が推測されています。進行とともに盛り上がって、潰瘍をつくるようになるとともに、多くの場合、がんの辺縁部(ふち)に小結節と呼ばれる、グレーがかった黒色のつぶが見られるようになります。
有棘細胞がん
表皮の有棘層にできるがんで、日本人に多く見られます。紫外線(特にUV-B)を浴びることがおもな原因とされ、短時間でも強い日光に当たることは発がんのリスクとなるほか、子どものころからの紫外線の蓄積も影響します。顔や頭部に多く発生し、盛り上がってかさぶたや潰瘍をつくることがあります。
悪性黒色腫(メラノーマ)
俗に“ほくろのがん”として知られているがんで、基底層にあり皮膚の色に関係する色素細胞(メラノサイト)や、ほくろの細胞である母斑細胞ががん化したものと考えられます。黒色腫、またはメラノーマと呼ばれることもあります。症状の出方や場所等によって悪性黒子型、表在拡大型、末端黒子型、結節型のおもに4タイプがあり、特に日本人に多いのは末端黒子型で、足の裏に発生するのが特徴です。
なお、上記の他に乳房外パジェット病(汗腺の一種ががん化)や皮膚の悪性リンパ腫(皮膚組織中のリンパ球がん化)も皮膚がんに分類されます。
皮膚がんは表皮の色や形状などの変化から、比較的早期に気づきやすいがんとされますが、しばしばほくろと思いこみ、受診が遅れるケースも多々あります。進行とともに大きくなったり、盛り上がったり、潰瘍やしこりを形成したりし、炎症が起これば痛みを感じることもあります。また、有棘細胞がんの場合は細菌感染を起こしやすいので、膿や悪臭をともなうこともあります。さらに進行すると、リンパ節や他の臓器に転移し痛みを発する場合があります。
次のような特徴が見られるほくろや皮膚の異常があったら、早めに皮膚科専門医を受診しましょう。
- 輪郭がはっきりしない、ギザギザしている
- 色むらがある、まだらである。色が急に変化した
- 6㎜以上ある、あるいはここ1~2年で急に大きくなり5~6㎜を超えた
- ほくろの一部がふくらんだり、かたまりができた
- 爪に黒褐色の縦のすじができ、色が濃くなったり、すじの幅が太くなってきた
- かさつきのある赤い斑点ができ、なかなか治らない
- 顔面の中心よりにできた、表面が黒くつやつやしたほくろが、徐々に大きくなってきた
手術による切除が第一選択―皮膚がんのステージと治療
皮膚に起きた異常が、がんかどうかを調べるには、視診や触診のほか、ダーモスコピーという特殊なルーペでがん特有の形状を観察する検査が行われます。診断を確実にするために、組織の一部を切除し細胞を調べる生検が行われる場合もあります。また、がんの広がりや転移の有無を調べるには、CT等の画像検査が行われます。
皮膚がんのステージは、がんの種類によってそれぞれ定められていますが、いずれも表面(上皮)にとどまっている段階であれば、がん(腫瘍)とその周辺の切除が治療の第一選択となります。
腫瘍が切除できない場合や、転移がある場合には薬物療法や放射線療法が検討されます。なお、手術が可能であっても術後に再発予防の目的で、これらの治療法を併用することがあります。
また、凍結してがん細胞を壊死させる凍結療法や、レーザー、外用薬といった治療法もありますが、適応は限られています。他のがんと同様に、がんの広がりや深さ、転移の有無、また患者さんの意向も踏まえ、複数の治療法の組み合わせで治療計画が立てられます。
なお、手術で広範囲に患部を切除することで、皮膚に欠損が生じるため、手術の際には皮膚移植などによる再建計画もあわせて検討されます。
0期 | 上皮内がん(がん細胞が臓器の表面を覆っている上皮までにとどまっているがん) |
Ⅰ期 | 最大径が2cm以下のがん |
Ⅱ期 | 最大径が2cmを超えており4cm以下のがん |
Ⅲ期 | 最大径が4cmを超えているがん、または軽度の骨のびらん、もしくは神経周囲への浸潤、もしくは深部への浸潤を伴うがん |
1個のリンパ節に最大径が3cm以下のがんの転移がある | |
Ⅳa期 | 1個のリンパ節に最大径が3cmを超えており6cm以下のがんの転移がある、もしくは複数のリンパ節に転移があるが、すべて最大径が6cm以下のがん |
リンパ節転移の有無に関らず、軟骨や骨髄(こつずい)への浸潤を伴うがん。または椎間孔への浸潤および/または椎間孔から硬膜上腔までの浸潤を含む中軸骨格の浸潤を伴うがん | |
Ⅳb期 | がんの大きさやリンパ節転移の有無に関わらず、遠隔転移を伴うがん |
出典:UICC日本委員会TNM委員会訳「TNM悪性腫瘍の分類 第8版 日本語版(2017年)」(金原出版) |
0期 | 悪性化した細胞(がん細胞)は出現しているものの表皮の中にとどまっている。この時期を表皮内がんと呼ぶが、これはがんの一歩手前の状態。本物のがんではない。 |
Ⅰ期 | 腫瘍の大きさが2cm以下で、真皮だけ、または真皮から皮下組織の中にとどまっている。 |
Ⅱ期 | 腫瘍の大きさは2cmを超えているが、真皮、または真皮から皮下組織の中にとどまっている。 |
Ⅲ期 | 腫瘍の大きさにかかわらず、腫瘍の深さが皮下組織を越えて、さらに深い筋肉、軟骨、骨などにおよんでいる。または腫瘍の大きさにかかわらず、所属リンパ節と呼ばれる首、わきの下、太もものつけ根のリンパ節に転移がある。(注:同時にいくつもの腫瘍が多発している場合は、その中のもっとも進行した状態のものを代表と考えて病期分類を行う。) |
Ⅳ期 | 最大径が6cm以上のリンパ節転移がある。または所属リンパ節を越えて遠隔転移をしている。 |
出典:日本皮膚悪性腫瘍学会編「皮膚悪性腫瘍取扱い規約 第2版」(金原出版) |
がんの厚さ | 潰瘍なし | 潰瘍あり | |
---|---|---|---|
がんは原発層のみ | 0.8mm未満 | ⅠA | ⅠB |
0.8mm以上1mm以下 | ⅠB | ⅠB | |
1mmを超えているが2mm以下 | ⅠB | ⅡA | |
2mmを超えているが4mm以下 | ⅡA | ⅡB | |
4mmを超えている | ⅡB | ⅡC | |
がんの厚さに関わらず、 1個以上のリンパ節転移がある | Ⅲ | ||
がんの厚さやリンパ節転移に関わらず、 別の臓器に転移している | Ⅳ | ||
出典:UICC TNM Classification of Malignant Tumours, 8th Edn, Wiley-Blackwell:2017, 143-144 |
皮膚がんと免疫療法
皮膚がんの中でも特に悪性度が高い悪性黒色腫(メラノーマ)に対しては、細胞障害性抗がん剤のほか、インターフェロン製剤や分子標的薬、そして免疫チェックポイント阻害薬といった、がん細胞を消滅させたり腫瘍を小さくさせたりするさまざまなアプローチの薬物療法があります。特に免疫チェックポイント阻害薬はここ数年の間にニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブといった、複数の薬剤が承認されています。
免疫とはそもそも、病気から身を守る自己防衛機能といえます。体内に侵入した菌やウイルスなどを、自分が保有するものと同じものかそうでないものかを見分け、そうでないものは異物として排除します。これを「免疫応答」といいます。
ところが、がん細胞はもともと、免疫応答を封じ込めてしまうタンパク質(抗体)を持っています。これが免疫細胞と結合すると、免疫細胞はがん細胞への攻撃ができなくなってしまうのです。
これを阻害するのが、免疫チェックポイント阻害薬です。つまり、免疫応答が封じ込められないようにして、がん細胞への攻撃をできるようにするよう働く薬なのです。
ただし、免疫応答がしやすくなるということは、がん細胞への攻撃がしやすくなる半面、正常な細胞も攻撃してしまうリスクが高まります。それにより、甲状腺機能低下症などの自己免疫疾患を引き起こす恐れがあります。
また、頻度は0.1~0.01%と低いものの、命にかかわる疾患として、劇症Ⅰ型糖尿病、薬剤性肺炎、下垂体炎に起因する副腎不全などを発症したという報告があります。
現在、承認されている免疫チェックポイント阻害剤は、手術ができない場合や再発した場合の悪性黒色腫に対して用いられますが、患者さんの全身状態や他の疾患の有無等により投与できない場合もあります。
安全に治療を受けるために、免疫チェックポイント阻害薬は、急な副作用の発生に対応できる施設で行うことが望ましいといえます。
まとめ
皮膚がんの治療は、手術による切除が第一選択ですが、手術ができない場合や転移がある場合には薬物療法や放射線治療等が検討されます。薬物療法は近年、免疫を利用した免疫チェックポイント阻害薬が悪性黒色腫に対して用いられるようになってきており、予後の改善に期待が持たれています。
【甲 陽平(かぶと・ようへい)】 医療法人輝鳳会 池袋クリニック 院長 1997年、京都府立医科大学医学部卒業。2010年、池袋がんクリニック(現 池袋クリニック)開院。 「あきらめないがん治療」をテーマに、種々の免疫細胞療法を主軸とし、その他の最先端のがん治療も取り入れた複合免疫治療を行う。 池袋クリニック、新大阪クリニックの2院において、標準治療では治療が難しい患者に対して、高活性化NK細胞療法を中心にした治療を行い、その実績は5,000例を超える。 |