主治医との関係で悩む患者さんに伝えたい「上手な医師との付き合い方」
がんの治療は、手術をして体調が回復したら終わり、というわけにはいきません。入院が長引くこともありますし、退院後も通院して治療をしたり、定期的に検診を受けたりと、長い期間あるいは一生の付き合いになる可能性もあります。それだけに、がんという病気と上手に向き合い、納得のゆく治療を受けるには、担当の医師と良好な人間関係を築くことが不可欠です。コミュニケーション不足は、お互いの不信感やあきらめを招くだけでなく、患者はもちろん医師にとっても納得のいかない医療を提供することになりかねません。
目次
主治医とのコミュニケーションに必要な「キャッチボール」
質問事項はあらかじめメモしておく
主治医との関係悪化のケース事例と対処法
専門外だと否定する医師も
主治医とのコミュニケーションに必要な「キャッチボール」
患者が主治医と関係がうまくいっていると感じるのは、診察や治療を受ける過程で、がんの病状や治療法について必要に応じ適切な情報を過不足なく提供してくれ、患者の質問にきちんと答えてくれるときでしょう。言い換えれば、「先生の言うことが腑に落ちる」「納得できる答えを返してくれる」と感じるときではないでしょうか。
しかし、このような関係は主治医から患者への一方通行の説明で得られるものではありません。コミュニケーションは、例えていえばキャッチボールです。互いに相手のことを思いつつ言葉のやり取りをする必要があります。がん治療においては、まず、主治医から病気の状況や今後の治療法について、しっかり説明を受けることが基本です。一方で、患者自らも、自分の病状について学ぶ姿勢が必要です。そのうえで、主治医からの情報と自分が学んだ情報をベースに、よくわかないことや確認したいことがあれば気兼ねなく質問し、治療上の希望があれば率直に伝え、困ったことがあれば遠慮なく相談をする、このように対話を重ねることで信頼関係は強固になり、患者と医師が手を取り合い治療にも積極的に向かうことができるのです。
質問事項はあらかじめメモしておく
主治医とのやり取りは言葉のキャッチボールだと上段で述べました。
例えば、「いつから放射線治療を始めるのですか」と聞けば、主治医は「○月○日からです」と答えて終わりになるかもしれません。その際、「もうすぐ誕生日なのですが」といった一言を添えれば、日程の相談がしたいのだな、といったことが主治医に伝わることもあるでしょう。質問に際しては、なぜその質問をしたのか、その背景がわかるように伝えるのがコツです。
自分の病状について理解が深まり、様々な情報に触れると、主治医に確認したいことが次から次へとわいてくるのも無理はありません。ところがいざ主治医と対面すると、あれもこれもとなって聞きたかったことを聞き逃すこともあるでしょう。そんなことのないように質問事項をあらかじめメモしておくことをおすすめします。とくに外来の場合は診療時間も短いので、聞きたいことを整理するとともに、質問のポイントを絞ることも必要です。質問事項は箇条書きにして、優先順位をつけておきましょう。
そして、診察室では、メモをとることをおすすめします。メモは、診察後に折りに触れて話の内容を思い出すために頼りとなるものです。すべてを書き留めようとせず、ポイントをメモします。また、聞き慣れない専門用語が出てきた場合は、どのような字を書くのか聞いたり、紙に書いてもらったりすることも必要です。先生が図や柄を走り書きして説明してくれたなら、そのメモをコピーさせてもらうのもひとつの方法でしょう。
重要な話を聞くときや込み入った話になりそうなときは、できるだけ家族をはじめ親しい人に同席してもらうことをおすすめします。たとえば、どのような副作用があらわれるのか、どのような手続きが必要なのかなど、のちほど本人が家族に説明するよりも、一緒に説明を聞いたほうが間違いもなく、家族間で情報をしっかり共有することもできます。
主治医との関係悪化のケース事例と対処法
主治医とよりよい関係を築くための努力は大切ですが、ちょっとしたことでその信頼関係が崩れたり、信頼関係を築けなかったりすることもありえます。たとえば、患者の側が自分の状況を正直に伝えなかった場合です。つらい症状があるにもかかわらず、変に我慢して「変わったことはないです」などと言ったり、処方通りに薬を服用していないのに「飲んでいます」と答えてしまったりするケースなどです。その結果、主治医の考えた治療計画が思い通りに進まない事態に陥り、信頼関係が崩れていきます。自分の状況はよいことも悪いことも正直に、オープンに伝えましょう。
また、患者は病状や治療に関する不安を取り除きたくて、医師に「私の悩みを聞き出してほしい」「不安を理解してほしい」「私の心のケアをしてほしい」と、情緒的な感情に陥りやすいものです。しかし、患者自身の人生観や人生の目標まで理解し、支え続けてくれるような医師と出会うことは、なかなか難しいことです。医師は治療のパートナーであって、人生のパートナーではありません。そんなときこそ、患者の基本に立ち戻り、医師と病状について積極的に会話をしたり、情報を自ら集め病状や治療法への理解を深めたりすることができればいいのですが。
医師との付き合い方には、決まりきった方法があるわけではありません。仮に主治医の医療技術や見識には満足している、問題はない、と思うのであれば、「がんを治す」という一点に焦点をあて、付き合っていくのもひとつの道です。そして、悩みや生きがいなどに関しては、主治医以外の病院のスタッフ(看護師、ソーシャルワーカー、臨床心理士など)に相談にのってもらったり、薬の相談なら薬剤師に、食事のことなら栄養士と、専門医療スタッフに質問を持ちかけたりする方法もあります。
主治医と向き合うことは大切ですが、一人ひとりの患者を医療専門のスタッフがチームとなって支えていることも忘れたくないものです。
専門外だと否定する医師も
患者が自分の病状に関して勉強し、情報収集した上でした質問に、機嫌が悪くなったり、「専門外だから」ととりあってくれなかったりする医師も稀にはいます。もし、医師の態度や技量に関して疑問を抱いたなら、下記のポイントについてチェックしてみましょう。
インフォームドコンセントが正しくなされているか
インフォームドコンセントとは「説明に基づく同意」の意で、患者が自分の病気と治療方針について医師から十分な説明や情報を得て、患者自身が十分理解したうえで、治療方針を決める、合意する“権利”を持つこと、と定義されています。そのためには、医師は患者の理解を助けるよう、わかりやすく詳細に説明する義務があります。もし十分な説明がなかった、あるいは質問にわかるまで答えてくれなかった場合は義務をはたしていません。
また、説明のあとで、「次回の受診までに治療法を決めてきてください」と、治療方針の選択や決定を患者にすべて委ねる場合があるかもしれません。しかし、専門家ではない患者が、すべてを自分で決定し、結果に対する責任まで負うのは大きなストレスです。このような状況に追い込む医師は問題があるといえるでしょう。
最新の治療について説明してくれたり質問に答えてくれたりするか
医師は多忙です。治療実績が十分でも最新の治療法についての勉強が不十分な人も見られるようです。「先進医療についても日々、自分の知識、技術をアップデートしているかどうかは大切な点です。ただし、患者が質問した治療法が医学的なエビデンス(科学的根拠)が乏しい場合は、否定される場合もあります。
まとめ
かつて日本では、ひとりの医師に治療を担当してもらったら、その医師に最後までまかせる、といった慣習がありました。しかし時代は変わり、セカンドオピニオンやサードオピニオンの活用も当たり前となりました。今回紹介したようなポイントに留意しながらコミュニケーションをはかっても満足する治療が受けられない場合は、勇気を持って他の医師や病院に相談することも考えましょう。