なぜアンジェリーナ・ジョリーは健康な乳房を切除したのか?「予防的乳房切除」を知る
アメリカの女優アンジェリーナ・ジョリーさんが「予防的乳房切除」を行ったということはご存知ですか?
予防的乳房切除とは、遺伝的にがんリスクの高い女性が、乳房が健康な状態であっても、予防のために切除することをいいます。しかし、あくまで‟可能性が高い“女性であって、今後がんを発症しないはずだった健康な方が乳房を失う結果になる恐れもあり、この処置には賛否両論あります。
それでも遺伝的にがんになりやすい方がいるのは確かです。一つの選択肢として知っておいて損はないでしょう。今回は予防的乳房切除について説明します。
目次
アンジェリーナ・ジョリーの告白で注目を集める「予防的乳房切除」
がん発症リスクを約90%低下できる
健康な乳房を切除する「メリット」と「デメリット」
予防的乳房切除手術の内容。その適切なタイミングとは?
アンジェリーナ・ジョリーの告白で注目を集める「予防的乳房切除」
「乳房の切除」と聞くと、‟女性らしさ“を失うのではないかと心配する女性は多いようです実際は小さな傷が残るだけで、手術前と変わらない見た目を維持することが可能です。アンジェリーナ・ジョリーさんの場合は、乳頭と乳輪の下の組織を取り出し、病巣がないか検査を実施。病巣がなかったため、仮の詰め物をして形成外科で乳房再建手術を行い治療が完了しました。胸の下の目立たない部分に傷が残りましたが、今も変わらぬ美しいスタイルを維持されています。
アメリカを代表する女優がこの手術に踏み切ったことで、予防的乳房切除という選択肢が一般に広く知られるようになりました。
がん発症リスクを約90%低下できる
日本では年間で約9万人が乳がんを発症していますが、そのうちの5~10%は遺伝性とされています。特に、がん抑制遺伝子のBRCA1、BRCA2という遺伝子のいずれかに変異がある人の発症確率が非常に高いことが分かっています。そのため、遺伝子検査を行ない、BRCA1、BRCA2に変異があるかどうかを調べます。ここで変異が確認できた人の乳房を、がんになる前に切除するということが、予防的乳房切除の基本的な考え方となります。
追跡研究によると、予防的乳房切除によって、乳癌発生のリスクを約90%減らせるという成績もでています(J Clin Oncol. 2004;22:1055-62.)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14981104。
アンジェリーナ・ジョリーさんの場合、母親が乳がんになり、その後卵巣がんも併発。56歳で亡くなっており、
母方の祖母も卵巣がんによって40代で亡くなっています。そのような家系から、遺伝子検査を受けたところ、将来乳がんになる可能性は87%、卵巣がんは50%以上と診断されたことから、予防的乳房切除に踏み切ったとされています。
健康な乳房を切除する「メリット」と「デメリット」
今まで、遺伝によるがんがあることを知らない方が数多くいましたが、遺伝を調べることで、自分自身ががんになりやすいか把握し、早期に対処を検討できることはメリットでしょう。この処置によって、遺伝性乳がんの発症リスクが、約90 %低下するとされている結果もあるため、選択肢として有効です。また、予防的な治療をあらかじめ受けておくことで、「いつか乳がんになるのでは」という精神的負担からも解放されるでしょう。
一方で、健康的な体の一部を切除することに否定的な声も少なくありません。将来必ずがんになるとは限らず、年に二回ほど、定期的な検診を受けていれば、乳がんの早期発見は可能といわれるなか、長期的な臨床成績もまだない予防的な切除に意味があるのかと、疑問を呈する医師も多いのです。
また、手術による合併症のリスクも存在します。必要のない手術を行ってしまい、少なくないリスクに身体がさらされる恐れがあるわけです。保険適用外であるため、高額な費用がかかる点も、誰もが選択できる方法とはいえません。
このように、現状ではメリットとデメリットがはっきりしない状態であることから、たとえ遺伝子に異常がみられたとしても、個人の判断では難しい部分があります。
予防的乳房切除手術の内容。その適切なタイミングとは?
予防的乳房切除では、「乳腺」という組織を切除します。手術方法には、乳腺と一緒に乳頭・乳輪と皮膚を取る「胸筋温存乳房切除術」と、乳頭・乳輪と皮膚を残して乳腺だけを取る「皮下乳腺全摘術」の二つがあります。どちらが適しているかは、患者さんの検査結果や治療歴などを参考に決められます。
切除を行なったあとは、インプラントを入れるかヒアルロン酸を注入するといった方法で、乳房の形状を取り戻す「乳房再建」を行います。
しかし、前述したようにリスクがあり、長期的な臨床成績もありません。医師からすすめることはなく、あくまで患者さんの意思による実施となります。
また、予防的乳房切除の対象となる方は、「血縁者に乳がんになった人がいる」「すでに一方の乳房が乳がんになった」といった方や、遺伝子検査でBRCA1とBRCA2に変異が見つかった方などがあたりますが、結婚や出産、就職にも影響が及ぶ可能性も考えられることから、切除手術を実施するかどうかは、予め、特定の病院で遺伝カウンセリングを受けるなど、第三者による判断は必要でしょう。
まとめ
遺伝子が原因とされるがんが存在することから、家族に乳がんや卵巣がんを罹患した方が多いのであれば、検査を受けてみると良いかもしれません。予防的切除には慎重になるべきですが、家族の病歴に関心を持つことで、病気の知識や情報を入手し、がんの予防や早期発見に努めることができます。