これからがん治療を行なう人が知っておきたい「副作用」の基礎
がん治療の薬による「副作用」では、治療法や薬の種類、量などによって様々な症状が現れるため、治療中、治療後は様々な不調に襲われます。しかし、この不調は予防や適切な処置によって、症状を和らげることができます。治療中、治療後の生活をできるだけ快適にするために、予防法や対処法について確認しましょう。
目次
健康な細胞にも影響を与えてしまう「放射線治療」「抗がん剤治療」
- 放射線治療の副作用
- 抗がん剤治療の副作用
[抗がん剤治療]代表的な七つの副作用
- 吐き気・嘔吐
- 下痢
- 便秘
- 口内炎
- 貧血
- 骨髄抑制
- 感染症
健康な細胞にも影響を与えてしまう「放射線治療」「抗がん剤治療」
がん細胞の増殖を防ぐ「放射線治療」や「抗がん剤治療」。これらは、がん治療において大きな役割を果たしています。ところが、がん細胞に働きかけるのと同時に健康な細胞にも影響し、患者の体に副作用をもたらす場合があります。
放射線治療の副作用
放射線治療では、がんのある部位に放射線を照射するため、全身的な副作用はないと思うかもしれませんが、疲労感、倦怠感、食欲不振、感染しやすくなる、貧血、出血などが現れることがあります。また、照射した部位の皮膚の変化など、局所的な副作用も起こる可能性があります。
これらの副作用には、急性期と晩期があり、急性期の副作用は治療中または直後に現れます。晩期の副作用については、放射線の量や照射する部位などで発生頻度を推定しながら、問題のないレベルで治療するので、重篤な症状はごくわずかの人にしか現れません。
抗がん剤治療の副作用
抗がん剤治療は広い範囲に効果があるため、副作用も体の広い範囲に影響を及ぼす可能性があります。
副作用は、抗がん剤の種類や量、治療期間などによっても違いますし、個人差もかなりありますが、さまざまな症状が現れます。分裂速度の速い血液細胞や口腔粘膜、胃腸粘膜、毛根の細胞などは、抗がん剤の作用の影響を受け、感染しやすくなるほか、貧血、出血、吐き気、口内炎、下痢、味覚の変化、脱毛、皮膚の障害、爪の変化など様々な症状が現れます。また、心臓、腎臓、膀胱、肺、神経組織の細胞が影響を受けることや、生殖機能に影響が及ぶこともあります。
これらの中でも最も頻繁に現れる症状は、吐き気、脱毛、白血球減少の三つです。
[抗がん剤治療]代表的な七つの副作用
がんの三大治療の中でも全身のがん細胞に働きかける“全身療法”である抗がん剤は、副作用もさまざまな症状となって現れることで知られています。
以下に、主な副作用についてまとめました。これですべてではありませんが、代表的なものを挙げています。一つずつ症状と対策について確認していきましょう。
吐き気・嘔吐
抗がん剤によって脳の中にある神経が刺激されることで起こります。放射線治療と併用した場合、照射部位によっては食道や胃に粘膜炎を起こした場合、吐き気や嘔吐が起こります。
〈対処法〉
制吐(せいと)剤(吐き気を抑える薬)を服用。我慢せずに積極的に内服しましょう。横向きに寝て、体を内側に曲げると楽になります。冷たい水でうがいをしたり、氷やキャンディーなどを口に含んだりするのも効果的です。リラックスしてゆっくりと腹式呼吸を行ってみましょう。抗がん剤治療を受ける日は、食事の量を少なめにし、治療の数時間前は食べないようにします。乳製品は消化するのに時間がかかるので、控えたほうが良いでしょう。
下痢
抗がん剤により腸管の粘膜が傷害され、下痢が起こります。投薬の種類によって急に起こる場合もありますが、多くは投与後2〜10日ぐらいに起こることが多いのです。
〈対処法〉
下痢止めや整腸剤を服用します。ひどい場合には、輸液(水分や電解質の補給)を点滴します。十分な水分補給を行い、トイレのあとは感染防止のため、必ず陰部を洗浄しましょう。普段から消化の良い食事と、十分な水分補給を心掛けます。カリウムの多い食品(バナナ、果物ジュースなど)を摂ると良いでしょう。
便秘
抗がん剤による自律神経の乱れや腸管への直接的な障害、制吐剤、食事量の減少などによって、腸の運動が弱くなり、便が出にくくなることがあります。
〈対処法〉
腸の運動を強める下剤や、便の水分を保ち便が柔らかくなる作用がある下剤などを服用します。こまめに水分を取り、繊維の多い食物を心がけましょう。毎日同じ時間にトイレに座ってみるのもおすすめです。また、無理のない程度の軽い運動も効果的です。
口内炎
口内粘膜への抗がん剤の直接的な障害や、免疫能低下に伴う感染により、口内炎ができ、痛みが出たり食べ物が染みたりします。
〈対処法〉
炎症を抑え鎮痛効果のある塗り薬や貼り薬を使用します。痛みが強い場合には、消毒作用や痛み止めの作用があるうがい薬を使います。熱いものや、刺激の強いものを避け、口内炎に染みにくい食事を摂ります。うがい薬でこまめにうがいをし、歯磨きなどで口の中を清潔にします。口の中が傷つくのを防ぐため、歯ブラシは小さめの柔らかいものを使用し、アルコール分を含んだ洗浄剤は、口の中を乾燥させるので避けたほうが良いでしょう。
貧血
抗がん剤の影響で骨髄機能が低下し、赤血球の数が少なくなると、貧血症状を起こすことがあります。疲労、倦怠感、めまい、動悸、息切れなどの症状が現れます。
〈対処法〉
ゆっくりと動いて、歩行は動悸や息切れのしない範囲で行いましょう。貧血が高度の場合は、輸血による治療を行います。だるさ、ふらつき、めまいなどの症状があるときは、担当医に相談しましょう。日頃から休養は十分に取るよう心掛けてください。
骨髄抑制
血液を作る骨髄の機能が障害を受けて、白血球や赤血球、血小板などが減少することで、細菌やカビに対する抵抗力が弱くなり、感染症を起こしやすくなります。抗がん剤を投与してから1~2週間後に影響が強く出ます。急な発熱や寒気、排尿時の痛みなどの症状が現れたら、担当医に連絡しましょう。
感染症
薬の影響で白血球の中の好中球が減少すると、病原菌に対する体の抵抗力が弱くなり、いろいろな部位で感染症を起こす可能性があります。ときには、菌血症、敗血症といった全身の感染症を引き起こす場合もあります。症状は、発熱、寒気、ふるえ、せき、のどの痛み、歯肉痛、虫歯、口内炎、下痢、腹痛、肛門痛、排尿時の痛み、血尿、頻尿、排尿感、皮膚の発疹、発赤などです。
〈対処法〉
血液検査を行い、白血球を増やす薬や抗生物質を投与します。日常生活で、うがい、手洗い、歯磨き、シャワー、入浴などで体や口の中を清潔にします。人混みを避け、外出時はマスクを着用し、帰宅後はうがい、手洗いをしっかり行いましょう。また、切り傷など、けがをしないように注意しましょう。
食事は調理後すぐに摂るなど食中毒対策をし、好中球が減少している時期には、必ず加熱処理した食事を摂ります。毎日体温を測り、急に熱が出たときには担当医に連絡しましょう。
まとめ
ここまで、抗がん剤を中心に、副作用について解説してきました。どれもつらさを伴う症状ではあり、正確に知っておくべき大切なことでもあります。しかし、必要以上に怖がる必要はありません。近年のがん治療研究は急速に進歩しており、上記のような副作用をゼロにすることはできなくとも、大幅に軽減することができています。また、副作用がほとんど生じない免疫治療を併用して治療計画を立てることで、負担を軽減するといった選択肢もとられるようになってきました。患者さんそれぞれに必要な治療は異なりますので、自分に最適な治療と副作用の可能性について、主治医から説明をしっかりと聞いて治療に臨むようにしましょう。